てんりせいかつ

てんりせいかつ VOL/37
古代から私たちの日常を支えてきた奈良蚊帳
―前編―

くらし
2022.08.22

第37回

丸山繊維産業㈱

第3代目社長・丸山欽也氏 と 専務・丸山勝弘氏 と 丸山八大氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介していきます。今回は、丸山繊維産業で「奈良蚊帳」を製織している丸山欽也さん、丸山勝弘さん、丸山八大さんです。奈良の伝統産業と会社展開について、天理市長柄町の工場でお話を伺いました。

地元に根ざした、古代からの伝統産業。

「うちの会社は創業1930年で、その時から奈良蚊帳を作ってる。今では、奈良で唯一一貫生産できる会社です」と丸山繊維産業の3代目の社長・丸山欽也さんは会社を紹介しました。社長は弟である丸山勝弘専務と、息子である丸山八大さんと一緒に会社の歴史を話してくれました。「機械は変わってるけど、やってることは昔と変わっていない」と社長は続けました。「蚊帳は『織機』、生地に糊を付ける『テンター』、『ミシン』。この3つの機械があったら、蚊帳が作れる。今も、うちにこの3つある」。

古代に中国から奈良へ伝わった蚊帳織り。たて糸とよこ糸を一ミリほどの四角に織った蚊帳生地は、風を通しながら、虫を通さないため、昔から夏の虫除けとして使われました。「奈良蚊帳」は地元の伝統産業になり、代々受け継がれてきました。昭和時代までは、奈良蚊帳と、蚊帳を作るための「大和綿」が非常に繁栄しました。「もともと大和綿や奈良蚊帳は、やっぱり中国から来ている」と社長は教えてくれました。「昔は大手紡績会社が、高田工場や郡山工場、これもJRの貨物が直結で敷かれてたね。だから、一大工場、一大綿の産地だったわ。綿植の紡績に伴った一大産地、昭和の半ばぐらいかな。。。もう誰もそんな話をしないけど」。

丸山繊維産業は1960年に奈良市から天理市長柄町に移り、現在の工場を設けました。「だけど、昭和の半ばから、下水道やクーラーができてきて、生活環境がかなりよくなったということで、蚊帳が必要でなくなった」と社長は言いました。「もともとの蚊帳屋さんが、今も製織しているのはうちと西大寺の会社の2軒だけや」。

寒冷紗で農作物を守り、蚊帳織りも守る

需要が減って、奈良蚊帳が消えそうな頃、意外なところから連絡が来ました。1965年、ニチボー(大日本紡績、現在:ユニチカ)は農作物を守る「寒冷紗」のための工場を探していたことから、丸山繊維産業に声をかけてきました。「寒冷紗は蚊帳の製造とよく似た手法だから、うまくマッチングしました」と社長は説明してくれました。蚊帳織りの技術を活かして、寒冷紗の製造に円滑に変わりました。「ニチボーさんの寒冷紗の受託で、糸を投入していただいて、我々は織って、樹脂加工をして、製品を作った。それに対して工賃をいただいて、我々は生計を立てた。そうやって、百パーセント下請けの会社にシフトをした」。

自社ブランドとアンテナショップで蚊帳織りを伝える

欽也社長は1980年に入社。虫除けの蚊帳を作らなくなっても、寒冷紗のおかげで、蚊帳織りの技術を守れました。しかし、数十年の間、世界で寒冷紗を作る会社が結構増えてきました。「そんなことから、1995年にギフト包装資材の『マルラップ』をやり出した。そして、寒冷紗の製造で守った蚊帳織りの技術を2004年に『ならっぷ』のブランドで活かした。奈良町に自社のアンテナショップを設け、デザイナーという経営資源を足しながら、新たな生活雑貨製品の事業をスタートした」と。

蚊帳生地の一枚は薄いけど、何枚かを重ね合わせると、厚みができて、使い道が広がります。観光客が行き来する奈良町のアンテナショップで、蚊帳ふきんやブックカバーなどの生活雑貨を通して、奈良蚊帳のことをより多くの人に伝えられるようになりました。

3社のコラボで、蚊帳生地のファッションが生まれる

今年、丸山繊維産業はファッションの世界に少し踏み入れて、ストールを新商品として出しました。その担当は社長の息子である丸山八大さんです。「ストールは生地自体はうちの生地だけど、田原本のメーカーさんとのコラボレーションです」と八大さんは草木染めのストールを見せてくれました。蚊帳生地のたて糸よこ糸の模様が見えて、手で取ってみれば、生地がとてもやわらかかったです。「奄美大島の泥染をしたら、繊維にその草木染が定着する。しかも、こんなにやわらかくなる」と八大さんは説明してくれました。

今年の3月に開村した「なら歴史芸術文化村」は「ならっぷ」の商品を販売していて、その中でストールは大好評です。「遠方の方々は興味を持って、気に入ってくれていると感じるね」と欽也社長は話しました。「やわらかいということが写真やネットでは伝わらないから、実際に触ってもらうことが大事やね」。

目に見えなくても、人の生活を支えてくれる蚊帳織り

「マルラップ」と「ならっぷ」の自社ブランドを展開しながら、丸山繊維産業は下請けの受託を続けてきました。寒冷紗から、自動車のシート基布、屋上の防水布、洗車用スポンジ基布などへ、蚊帳織りの技術を活かしています。「車をこれで拭くでしょう」と社長は黄色いスポンジを見せてくれました。「こういう吸水スポンジの中に、蚊帳の生地を入れている。スポンジを強くする。ぱっと絞ったらスポンジは破ってしまうけど、破れてはならないということで、寒冷紗の生地を入れる」。寒冷紗を入れて、強くなるものが他にもあります。「屋上防水の樹脂加工をする際に、その樹脂の割れ止め防止で、こういう寒冷紗を使う。昔の藁みたいなものね。そういうものの中に入れることによって、補強する」。

時代に伴って、使い方が変わる奈良蚊帳。重ね合わせて、ふきんやブックカバーにもなります。中に入れて強くなるスポンジや屋上防水布。目に見えても、見えなくても、奈良蚊帳はさまざまな形で私たちの日常を支え続けています。今回の前編で、丸山繊維産業の始まりから現在までの展開を紹介しました。後編では、海外への進出、現在の課題、そして、これからの目標を紹介します。ぜひ、ご覧ください。

後編につづく(9月5日(月)に公開)

丸山繊維産業㈱の公式ホームページ

Nawrapの公式インスタグラム

BACK
Share

この記事をシェアする