てんりせいかつ

てんりせいかつ VOL/50
みかん小屋で始まった、代々の観光農園
―前編―

くらし
2024.04.22

第50回

天理観光農園

左迫間佳奈子 

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介しています。今回は、天理観光農園の左迫間佳名子さんです。天理観光農園の始まりと今までの展開、大阪から地元に帰った経験、家業での活動について、天理市園原町で伺いました。

山に生まれて、山で遊ばせたい想い

天理観光農園は奈良盆地の東に連なる山並みの麓、天理市園原町の山の辺の道沿いにあります。3階建ての木造の建物はみかんやきんかんの果樹園に囲まれて、西へ奈良盆地が眼下に広がり、東へ山の森が続きます。左迫間佳名子さんはこういうのどかな環境に生まれて育ちました。「実家は山の上にあって、山しかなかったです。子どものころ、友達と山を登る、山を滑る、しょっちゅう怪我をしました」彼女は笑って思い出しました。「家の上の山で野球をしたり、鬼ごっこをしたり、サワガニを獲ったりしていました。それが当たり前の世界でした」。

左迫間さんは天理観光農園を運営している一人です。昭和30年代に、お祖父さんはみかん狩りの農園を始めました。「お祖父ちゃんが『子どもをここで遊ばせたい』と言って、山にみかんを植えて、『みんなみかん狩りしたらいいねん』という感じで、みかん山を作ったんです。友達がみかん狩りができるように」。

そのうち、左迫間さんのお父さんも天理観光農園で働くようになりました。そして、みかん狩りだけではなく、ここで他の遊び方もしたいという声がありました。

「もともとみかん小屋だけだったけど、みかん狩りで来ている人が『ここでバーベキューをさせて』とか『宴会をさせて』と言う風に増えてきました」と左迫間さんは言いました。「バーベキューや宴会ができるように、お父さんがどんどん建物を直して、この施設ができました」。

騒いでもいい、泣いてもいい、安心できるところ

左迫間さんは高校から大学まで、天理観光農園でアルバイトをしました。25歳の時に結婚して、大阪に引っ越しましたが、その2年後に園原町に帰ってきました。「子どももいていたから、やっぱりこういう自然なところで育ててあげたいと思って、家族でここに引っ越してきました」。

園原町の自然な環境は、子どもが子どもらしく育つことができます。「大阪では走り回ることがなかなかできない。隣が近いから、大きい声を出すのも、ちょっと我慢する。でも、ここやと、やっぱりどんなに子どもらが騒いでいても、山で叫んでも、誰も『うるさい』と言わないし」

親としても、人目を気にせずに子どもを育てられることが大事でした。「子どもが泣いたりするのは普通だと思うけど、人が近いと、気にしながら育てますよね。でも、ここで朝から『あちー』と叫んでいても大丈夫。お母さんとして、それがあるのと、ないのとでは、ストレスが違います」と彼女は言いました。

左迫間さんは見知らぬ大阪から園原町に帰ってきて、安心した子育てができました。「帰ってきて、最高でした。行くところ分かってるし。病院やと、どこがいいか分かってるし。地元だから、そういう情報を聞ける人もいるし。大阪に慣れたら、そうなんかもしれないけど、私には子育てをしながらは無理でした。父も母もいるし、姉妹もいるし」と彼女は地元ならではの親しみについて話しました。

姉妹でカフェのバトンタッチ

天理観光農園は日本最古の道・山の辺の道沿いにあり、小屋がハイカーのための無料休憩所でした。「奥でお祖母ちゃんが喫茶店をやっていて、そこでコーヒーを頼んで、ここで飲めた」と左迫間さんは思い出しました。「休憩所の時、あまりにも風が吹くから、冬はやっぱり誰も来なくて、お父さんはこの壁を付けました」。

左迫間さんが大阪に行っていた間、お姉さんがその休憩所でカフェを始めました。「大阪から帰ってきて、ここが『Cafeわわ』になっていました」と彼女は思い出しました。子育てをしながら、左迫間さんはCafeわわで働きはじめました。「私が3番目の子どもを産んでから、お店にずっと入れるようになったのは、10年ぐらい前でした。その後、姉は本通りでクレープ屋をするようになって、『どうぞ、どうぞ』とバトンタッチをしました」。

料理好きな左迫間さんはずっと調理を担当しています。柑橘を活かしたジュースやデザートをはじめ、ピザや柿の入ったカレーや三輪そうめんなどを含めるメニューがあります。店内で物販もあり、天理観光農園で売っている自家製ジャムは大人気です。「このジャムはずっと、うちのお祖母ちゃんのころから。ここで喫茶店をしていた時からつながっていて、ファンが多くて、これを買いに来る人は多いです。めっちゃおいしいです」。

笑顔で受け入れて、山の辺の道で盛り上がる音楽祭

奈良盆地を見渡せる、自然豊かな天理観光農園。近年、ここでイベントを行いたい知り合いが増えて、左迫間さんはそれをいつも笑顔で歓迎してきました。「私は本当に何もしていなくて、『貸して』と言われたら、『いいよ、いいよ、使ってね』と言います」。2階の宴会場で「山ヨガ」、カフェで花のワークショップ、庭で「ママ・マルシェ」などがあります。

約7年前に、音楽を練習したい人からのお願いがありました。「ここは広いから、『ここでウクレレの練習をさせて、1時間だけ』と私の知り合いの方は言って、『全然いいよ』って言ってたら、母がその人に『ここで発表会をしいや』と言わはったんです。その人は『いいよ』と言って、そこから徐々に大きくなって、すごくいっぱい来てくれはる、ありがたいです」

それは天理観光農園ライブ「come音わわ!」(カモーンわわ)の誕生でした。2ヶ月に1回で、2024年3月末に第44回が開催されました。「毎回違うメンバーです。アマチュアの人ばかりですけど、やっぱりファンがいます。集客する人も上手、いつも満席です」。

44回の中、思い出がたくさんあります。「一回、警察学校の学生さんたちが訓練で山の辺の道を歩いていて、ちょうどミュージシャンが『カンパイ』を歌ってはって、警察学校の学生たちもみんな歌って、盛り上がりました!」と左迫間さんは笑顔で思い出しました。

 

天理観光農園はみかん狩りで始まり、時代に伴って、バーベキュー場、宴会場、カフェもできました。左迫間さんはいったん大阪に出てから、家族と一緒に園原町に帰って、施設にあるCafeわわを運営するようになりました。昔のお客さんと最近のお客さん、仕事上の思いやり、地元に対する想いを後編『昔と変わらない農園で、笑顔を作り続ける』で紹介しますので、ぜひ、ご覧ください。

天理観光農園のホームページ

Cafe わわのインスタグラム

→後編は『昔から変わらない農園で、笑顔を作り続ける』は5月に公開予定です。

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