てんりせいかつ

てんりせいかつ VOL/49
地域の神社で、昔ながらの伝統を伝える
―後編―

くらし
2024.02.19

第49回

大和神社・宮司

塩谷陸男

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介しています。前編『大和に来て、心が喜ぶ神社を目指す』に引き続き、大和神社の宮司を務められている塩谷陸男さんを紹介します。大和神社の日常、神社の歴史、地域と神社の関係などについて、天理市新泉町にある大和神社で伺いました。

心のための時間、期待感を作る対話

滋賀県の社家に生まれた塩谷陸男さん。宮司として大和神社に来て、22年前になりました。毎朝、お日様が奈良盆地の東の山並みから出て、神社の長い参道と境内に差し込みます。野鳥の元気なさえずりや、電車のガタンガタンを除いては、境内はしんとしています。これは塩谷宮司にとっての大切な時間です。

「朝はいいな、爽やかで、空気がおいしい。ひんやりとしていますね」と言いました。「朝からお参りをして、清掃をします。清掃というと、心の清掃です。綺麗ばっかりじゃない。また、日頃からも清掃をする。草が見えたら、草引きをする。それを綺麗にすると、心がさっぱりするね」。

一日の業務をしながら、塩谷宮司は神社に来た人と気楽に話します。「来た人にもできるだけ丁寧に、面白く話します」。紀元前まで遡る大和神社は、日本最古級の神社であり、歴史が多彩です。「防災の神様。遣唐使ゆかりの神社。戦艦大和ゆかりの神社。まず、地元の人に知ってもらいたい。他所から来た人も、1分でも2分でも足を止めてもらうように、そういうことも考えなあかん」。

神社の話に限らず、冗談やダジャレが好きな塩谷宮司は笑顔を作り、会話を楽しませることが得意です。「最初はぱっと話して、その後、柔軟な言葉で話をします。次は『何があるかな』の期待感を持たさなあかん。心を惹きつける、分かりやすい話はね、とても大事ですね」。

8世紀の言葉が生きる、交通安全の発祥地

心を惹きつける一つの話は、参道沿いの歌碑にある言葉です。「向こうに書いてある『好去好来』は、万葉集巻五に出ています」と塩谷宮司は説明してくれました。8世紀に唐の国(現在中国)へ渡った遣唐使ゆかりの言葉です。塩谷宮司はその言葉に込められた意味も教えてくれました。「昔は田舟みたいな船やで。70パーセントは行き帰りで転覆して、水没し、ほとんどは行き帰りで亡くなりました。遣唐使は海を渡る時に、無事に帰ってくれますようにと、ここでお参りと祈願をしました」。

大和神社の本殿には、大地主大神である日本大国魂大神(やまとおおくにたまのおおかみ)が祀られています。危険な旅へ出発する前に、遣唐使の船が国に無事に帰ってくるように、日本大国魂大神に祈願をしました。

「その時に、山上憶良という文人は『好去好来』という言葉を作った。それは『無事に行ってらっしゃい』という意味です。昔から、今も生きている言葉ですね。『気を付けてな!気を付けて帰って、また来てね!』そういう言葉を簡単に言ったら、『好去好来』っていう。ここは交通安全の発祥地です」。

交通安全を伝える「好去好来」の歌碑の他、大和神社は毎年の11月1日に「交通安全祈願祭」を行っています。「奈良県交通安全協会の会員、20~30人が来てくれます。11月1日の11時からで、1が並ぶ、とても『いい』日です」と塩谷宮司は微笑みました。

昔ながらの伝統。祭りを通して、自然との触れ合い

例祭である「ちゃんちゃん祭り」「茅の輪くぐり」「紅しで踊り」「お弓始め祭」など、大和神社は一年中、伝統的な行事を開催しています。毎回、塩谷宮司は地元の人に協力してもらっています。「氏神さんの関係があるから、地元の人はここを本当に大切にしている。祭りなど、いろいろな行事に協力していて、神社を盛り上げてくれています」と言いました。

「少し変化したことがあるけど、古い神社だから、いろいろな行事は昔ながらの形で連綿と続いている良さがあるから、人は来るね」。その一つは毎年の4月1日に開催される「ちゃんちゃん祭り」です。

「昔、農家は1年前から休みを取って、町内の祭りに参加することが決まっていました」と塩谷宮司は言いました。農家が少なくなり、学校や職場の年度が4月1日から始まる時代になり、その日に休みを取ることが難しくなってきました。しかし、神社からすると、例祭の日を変えることも難しいのです。「大昔ですが、はっきり言ったら、4月1日は神様の誕生日です。誕生日を変えることはできないね」と塩谷宮司は言いました。

昔の人にとって、祭りは一年の流れを感じさせる大事な節目でした。「昔、農家が多くて、ちゃんちゃん祭りの時期、柿の芽が出たりして、『もう、みんな種まきをせなあかん。今年は春が早いな』と。昔は自然との対話を求めていたね、祭りを通して。自然と触れ合いながら時期を見ていた」。

地域の神社を口々で伝える

近年、県外の人も大和神社の祭りや行事に来るようになりましたが、もともとはそうではなかったのです。「今はね、新聞やインターネットで広がるけど、昔は地域の範囲でやっていたから、口々で言い伝えていました。最近は交通が発展して、遠方から来てくれるようになったけど、昔は地域内だけでやっていた」。

そうした中で、周りの人に口で直接伝えることがまだとても大事です。「何か会合があった時、『今度、こういう祭りがありますよ』と。また、宴会などの席に行って、一緒に飲みながらの口コミですね。神社や祭りのことを口々で伝えていかないと、伝わらないことがあるね」と塩谷宮司は言いました。また、「これからの神社は。。。本当の姿に帰ってもらいたい」と。神社の話も、冗談も好きな塩谷宮司は、そうやって地域でじわじわと仲間を増やしながら、これからも大和神社と人とのつながりを大切にし続けます。

大和神社のホームページ

大和神社のインスタグラム

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