てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/02
天理が先陣を切って
日本のあるべき姿を発信していければ理想。
—後編—

歴史
2018.06.28

第2回

奈良県立図書情報館館長 千田稔 氏
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graf代表/天理市ブランディングプロデューサー 服部滋樹 氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活動されている魅力的な方々を訪ね巡りご紹介していきます。記念すべき第二回は、第一回に引き続き特別対談として、天理市のブランディングプロデューサーを務めるgraf代表服部滋樹氏が、奈良県立図書情報館館長であり、歴史地理学者の千田稔氏を訪ねました。大和盆地の東側、連なる山々の麓にある「山の辺の道」をめぐりながら、天理が持つ可能性について色々なものが見えてきました。

深い森や自然は
子育てをする上では大きな財産

いよいよ最後の訪問地である夜都伎神社に向かう二人。雨が小ぶりになったので傘を閉じ、境内へと伸びる参道を進みながら話の続きがはじまった。「ここに前回来た時はちょうど台風が来ていたんですが、それでも何だか気持ちよかったんです」と服部氏。「やっぱり独特な空気が流れているのは間違いないですよね」と千田館長がこたえる。

山の辺の道沿いに鎮座する神社・夜都伎神社。ここは、奈良の春日大社とも関係が深い神社で、この地方では珍しいカヤ葺きの拝殿が独特の景観をつくりだしている。「時代はすごい勢いで動いています。どう動くかはわかりませんが、わからないなりに想像してみても、いい方向には動いていないんじゃないかと思うんです」。雨足が少し強くなってきたせいか、千田館長の声が少し大きくなる。「それを食い止められるのが自然の力。自然の中なら子どもたちが仲間づくりを学べます。神社のお祭りにも参加してほしいですし、そういうことが大事だと大人が声をあげていけば、天理は“人間としての営みのモデルを発信できる町”になると思っています」。服部氏も大きくうなずく。

 

千田館長はさらに「ネイティブな人間」を育てていく必要があると続けた。「根無し草のような人が増えていますが、やっぱり風土に根ざしたネイティブな生き方をした方が幸せには繋がるんじゃないかと思うんです。その時にこの周辺にある深い森や神社が大切になるんです」。「周辺の集落の方は歳時記に合わせてお祭りをやっているんですよ」と服部氏。千田館長は「そういう取り組みは外に発信することも大事ですが、子どもたちにもっと活用できるといいですよね」と力説する。

自分が見えていない自分を
もっと大事にしたほうがいい

昔から神様は暗闇の奥の方に鬱蒼とした森林の中にいるとされてきた。神様は見えないほうがありがたい。そんな「見えないことの価値」に千田館長の話は展開していった。

「森は神様も隠れられますが、人間も隠れられる大切な場所なんです。今はどこに行っても明るい場所だらけになったので、子どもたちはずっといい子でいないといけない社会になってしまった」と千田館長。そして、隠れられる場所は大人にとっても大切だという。「一人静かな森に入ったら自分がどんな本性を持った人間なのかを自覚できるでしょう。それってすごく大事なことなんです。悪い部分も自覚できるから正しい行いができるようになる。明るすぎる社会ではこういう機会は減っていますからね」。服部氏は期待を込めて続けた。「確かにそうですね。そんな自然に触れるきっかけが天理駅前のコフフンになるといいですね。あそこは子どもたちを自然につれていく出発点になれるかもしれません」。天理には“この国が生まれた森”が暮らしのすぐ近くにある。そんな当たり前にも改めて気づくことができた。

芸術家村ができることで
この土地のポテンシャルは引き立つ

奈良の文化・芸術を後世に伝える教育・研究・活動の場を整備し、人材育成や県民に文化活動の機会を提供することを目的とした「(仮称)奈良県国際芸術家村」の建設計画が奈良県によって進められている。開村は2021年度になる見込みだ。新しい見所が天理にできることを二人はどう考えているのだろう。

「国際芸術家村が天理にできることや、駅前にコフフンができたことにはすごく意味があると考えています。こういう施設ができることで、今まで可視化されていなかったこの土地が持つポテンシャルが目に見える形になると思うんです。建設予定地は、今はなき幻の大寺院・内山永久寺の参道西入り口近辺だということですので、訪れる人がそんな歴史を改めて意識する機会が増えるのではないかと思います」と服部氏は語る。一方、千田館長はちょっと違った期待を寄せているようだ。「芸術家に任せない芸術ができたらいいなあと個人的には思うんです。歌は音痴、絵は描けない。でも天理には自分の作品を発表できる場所がある。人々が何かを表現したい気持ちは、もしかしたら人を呼ぶ力になるかもしれないですから」。天理は自分だけのパワースポットに出会える街。国際芸術家村もまた、誰かのパワースポットになるのかもしれない。夕日の時間。まるで見計らったかのように雨が上がった。傘を閉じた二人が夜都伎神社の鳥居をくぐり、山の辺の道に戻ったところで今回の特別対談はおひらきとなった。

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