てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/08
完璧じゃないから面白い。
不完全だから美しいものもある。—後編—

芸術文化
2018.10.22

第8回

刀匠 布都正崇(ふつのまさたか)氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活動されている魅力的な方々を訪ね巡りご紹介していきます。今回は、第7回に続き刀鍛治として日々刀と向き合う正崇さんです。不思議な力に導かれて20代で刀づくりの世界に足を踏み入れた正崇さんが目指す究極の刀とは?刀づくりの醍醐味とは?そしてこれからのお話を伺いました。

刀匠として最初につくった刀は
親方に贈った。

「刀についてはゲームに出てくるのを知っていたくらいで、名刀・正宗もよく知りませんでした」。正崇さんが刀鍛冶になった経緯は、ご自身でも不思議な縁としか言いようがないと語る。「笑い話みたいな感じで聞いてくださいね。ある夢を見たんです。僕が刀鍛冶でどうやら“清磨(きよまろ)”という名前のようでした。まったく知らない名前でしたし、けったいな名前やなあと思いましたね。次の瞬間、逃げろ!という叫び声が聞こえたので必死で逃げたんです。そこで目が覚めた。そんな夢でした」。その後、夢のことが気になった正崇さんは本屋で刀の本を手に取ってビックリすることに。何と清磨という名前の刀鍛冶が江戸時代に実在していたのだ。「鳥肌ものでした。その偶然が刀鍛冶を意識したきっかけになったのは間違いありませんね」。

やるからにはやり抜くと決め、
天理を離れ室生に修行に出る。

刀鍛冶になることを決め、河内隆平氏に弟子入りして5年。文化庁から作刀認可を受け、いよいよ一人で刀をつくることができるようになった正崇さん。記念すべき最初の刀は、5年間めんどうをみてくれた親方に感謝の意を込めて贈ったという。「こんな奴がおったなと、思い出してもらって、楽しんでもらえたらいいなと渡してきましたね。こっちに同じ頃に作ったかなり初期作ありますよ。27歳の時の刀です」。そういっておもむろに1本の刀を取り出して見せてくれた。今つくるものとは全然仕上がりは違う。でもそれはそれでいいのだと語る。

「その時、その時に一生懸命やっていたら、それでいいんちゃうかなと思います。完璧って面白くない。でこぼこや不安定さがあるからこそ、面白味がある。それが僕は美なのかなと思います。完璧なものは美ではなくてただの製品になってしまう。ここは美意識が出るところですね」。刀には作り手の考え方が余すことなく叩き込まれている。誤魔化しがきかない厳しくも奥深い世界が広がっているのだ。

教えてくれる人はいない。
だから自分の手でつかむしかない。

名刀と言われる刀は必ずしも現代のものではない。だからそれを模してつくるためには自身で試行錯誤するよりほかない。「僕の刀づくりは実験の連続です。親方に教えてもらったのはあくまで今現在やっている刀鍛冶のやり方。でも、僕が目指しているのはそこじゃなくて鎌倉時代の刀です。もう当時の人はいませんから実験して自分でつかむしかないんです。昔は機械がないですから叩くといっても今のようにはできなかっただろうし、炭も品質がいいわけでも多分なかったでしょう。鎌倉時代、どういうふうに刀を作っていたのかなと想像を膨らませながら刀と向き合っています。

今残っている昔の刀が先生。だから、国宝とか、博物館とか見て回ることにはすごく意味があるんです。そういう意味では天理のような歴史のあるところは僕のやり方には向いているのかもしれませんね」。

天理という土地で
刀をつくるということ。

日本には古えより名刀工を輩出した地があり、そこで生みされた技術は全国に多大な影響を与えた。「五箇伝」と呼ばれているそれらの地には、大和〔奈良県〕、山城〔京都府〕、備前〔岡山県〕、相州〔神奈川県〕、美濃〔岐阜県〕が挙げられ、天理も大和としてその中に数えられた土地だ。「こうやって刀を作るというのは、僕1人でできるものではありませんし、親方との出会いや、それ以前に、ここに先祖が住んでいたからこそ、ご縁の中でできているとつくづく思います」。天理という土地で刀鍛冶の道を歩む正崇さんは、何か大きな力のおかげで仕事ができているとしきりに話してくれた。その自然体な姿勢は、刀作りのペースを聞くとさらによくわかる。「僕はどちらかというと気分屋なんで、やるときはやりますが、やらないときは全然やりません(笑)。よく怒られますけど、やっぱり気持ちよくやりたいんだと思うんです。気分が乗らない時にいい刀ができるわけありませんからね」。

奥様とのコラボレーション、
本格的なペーパーナイフ。

正崇さんは刀の他に、玉鋼からつくるペーパーナイフの作り手としても評価を得ている。「海外からのお客様が刀をすぐ持って帰りたいとおっしゃっているのを聞き、法律の制限で刀は無理でも、刀の技術でつくったナイフなら持って帰っていただける!と考えたのがこのペーパーナイフでした」。アメリカ、ヨーロッパ、中国からの観光客が多く、工房を見学した帰りに記念に購入していくのだという。

さらにペーパーナイフを粋に飾るために施された藍染はテキスタイル(織物・染物)を手がける奥様の仕事だ。ものづくりに魅せられた夫婦でのコラボレーションはうらやましい限りだ。最後に今後の抱負をお聞きした。「そうですね、みんなを驚かすようなものをつくりたいですね。奇をてらうというものではなく、名刀の図鑑に載ってもおかしくないような刀をつくること。刀好きでもないところからご縁でここまできただけですが、この縁を大事にしていきたいです」。鋼を鍛える職人の厳しい表情とはまた違う、優しい表情の正崇さんは充実感に満ちているように見えた。

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