てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/10
地元に誇りを持つ人を
増やしていきたい。—後編—

くらし
2018.11.16

第10回

天理市トレイルセンター管理人/洋食katsuiオーナー
勝井景介氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活動されている魅力的な方々を訪ね巡りご紹介していきます。今回は前回に引き続き、長年大阪で愛された名店「洋食katsui」を閉じ、故郷に戻り天理市トレイルセンターで管理人として地域を盛り上げる勝井さんです。東京、大阪で暮らした後に天理の地に拠点を移した勝井さんが考える天理の魅力とは?

本当にいいものが
日常にあるということ。

天理市トレイルセンターの指定管理者となって約1年半。その間で心境にどんな変化があったかを尋ねると間髪入れずに「感動の数が格段に増えた」と勝井さん。「去年、生まれて初めて柳本の花火大会を見たんです。ここから150mくらいの距離のところで上がるんですが、真っ暗闇に『コーン、ヒューン、ドーン』と。都会の花火と違って一つ一つじっくり間があって、丁寧に打ち上げられるんです。それが15分くらいで終わる。でもそれで十分。花火って本来は、1年に1回、みんなでお金を出し合って楽しむ遊びだったと思うんです。下駄を履いて歩いて見に行って、見終わったら家に帰って一杯飲んで寝る。すごく贅沢だと思いません?」。大阪から友人を呼んだところ、小さな花火大会にみんなが感動して帰っていったという。決して派手ではないけれど本質的な良さがちゃんと残っている。感度が高くなるからこそ、感動も増える。そんな日々が天理にはあるのだ。

つながっている人が、
本当につながっている安心感

「人と人が、ちゃんとつながっているんです、ここは」。見栄を張らなくていい。ありのままの自分でいる時間しかないと勝井さんは語る。「イベントで会ったとか、名刺だけもらって、結局何やってるかもわからない知り合いではなくて、もうはっきりと、あいつは結婚3回してるとか、そういうところまで知って付き合っている人が多くなりましたよ。話題の中でも、足の調子悪いとか、おふくろが認知症で困っているとか、そういう話をみんな平気でするわけ。これまで僕も腹割って話しているつもりで過ごしてきましたが、こっちに来て、自分は全然腹割ってなかったなと(笑)」。肩書きで付き合っているわけではないから、人間関係がブツッと終わる瞬間がない。そんなことも天理に戻って見えてきたことなのだという。

ご縁は大切にすれば
深まり繋がる。

天理市トレイルセンターでは勝井さんのプロデュースで多彩な催しが企画されているが、それもまた「人のつながり」から生まれているという。落語をやろうと企画して、昔のネットワークで誰かに依頼しようとしていたら従業員から紹介を受けたと勝井さん。「主人の同級生に落語家さんがいるんですがどうですか?」と聞き、そのご縁がとてもうれしかったという。「その方は古典落語を真剣にやられている方で、6代目笑福亭松鶴さんのお弟子さんの笑福亭鶴二さんでした。ご縁あって来てくださった方だったのが、うれしくてうれしくて。演目の前に今回落語をお願いできた経緯やプロフィールをじっくりご紹介しすぎて『落語やりにくいわ(笑)』と言われてしまいました」。

自分の地元は最高だと、
みんなが誇りを持ってほしい。

勝井さんは天理に戻る前に九州、北海道、長野などを独自に視察して研究したという。そこで、「こうなってはいけない」というケースを目の当たりにしてきた。「経済は発展しているけど、地元の人たちがシラけている。それは絶対にまちづくりとしては失敗だと思います。僕がここで様々な人と触れあいながら目指したいゴールは、柳本に住む人たちが、自分たちに何の疑いもなく誇りが持てるようになることなんです」。さらに勝井さんは続ける。「『家どこですか?』『葉山※です』『いいですね』『そんなことないですよ。夏になったら人がいっぱいだし』みたいな余裕の受け答えなんかしちゃう状態が理想ですね。

※神奈川県葉山町=マリンスポーツが盛んな関東有数の人気リゾートを抱える町

『いいですね、柳本』って言われた時に、『でもね、暑いよ夏は。(でも最高だけどね)』ぐらい言える町になれば、みんな帰ってきたくなるじゃないですかね。例えば町の小さな映画館もあって、銭湯も洒落たのがあって、落語もあって、映画もすごくかっこいいタイトルがブッキングされていて。さらにアーティストも住んでいて、外国人たちからも注目されている町がもしここにできたら、みんなが自信を持てるようになると思うんです。小さなアクションかもしれませんが、今僕はその作業をやっているつもりです。できるだけ遠くの人から『いいですね』って言ってもらえるようにしたいんです」と語る勝井さんの目は、それが決して夢物語ではないと思わせてくれた。

絶対的に素晴らしいものがある。
それはとてつもない財産。

「ニセコには世界中からトップのプロボーダーが集まるでしょう?何で集まるかというと、あそこは世界で最高のパウダースノーがあるからなんです。それと同じように天理には、日本がここから始まったという揺るぎない絶対的な魅力があるわけなんです。間違いなくここで国家は生まれましたから」。10代からポップカルチャーに魅せられ、東京で生まれる流行の最先端にアンテナを張ってきた勝井さんが辿り着いたのは、自分の足元にあった文化と歴史だったのだ。「物質にあふれたところもいいですが、物質じゃない“何か”がこれだけあるところも結構いいでしょう?」。館内に常設されている文化財を紹介するコーナーを案内してもらいながら聞く歴史の話は、他の人が語るのとは説得力が違った。

地元の人のための施設であり、
世界中の人が来たくなる場所に。

勝井さんはこの先の構想をかなり具体的にもっている。「まずはローカル、そしてリージョナル(地方)、つぎにナショナル、そしてインターナショナルという方向に徐々に引っ張っていきたい」とビジョンを語ってくれた。そこで重要になるのが「秩序」だという。「山小屋を例にすると、ごみを捨てないでくださいとか、そんな看板があるところは大したことがない(笑)。あれしちゃいけない、これしちゃいけないっていう看板があるところはまず秩序が低いと考えていい。何でも出来るけど、個々が皆に気遣える気持ち良い基準を持つことが大切で、だからここは基本的に何でもOKという形をとりたいと思っています。“禁煙”ではなくて“お煙草はあちらでお楽しみください”と書くべきだし、そういう文化度の高さを少しずつつくっていきたいと考えています」。5年という任期の中でどこまで自身が掲げるビジョンに近づけるか。勝井さんの挑戦はまだまだつづく。

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