てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/20
これまでの積み重ねが
ブランドの厚みになる。
―後編―

くらし
2019.10.11

第20回

坂利製麺所 常務取締役
坂口利勝 氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介していきます。今回は前回に続き、国産小麦粉の使用にこだわり、にゅうめん、葛入りのそうめん、うどんなどを製造・販売する坂利製麺所の坂口さんです。中川政七商店とのコラボレーションのきっかけ、発見、そしてこれからの展望をお聞きしました。

中川政七商店、
中川淳さんとの出会い

坂利製麺所では、そうめんを進化させた「日本の麺」という新ブランドをつくり、第一弾として「新麺ニューメン 和風味」が人気を博している。その誕生の裏側に、日本の伝統工芸を元気に!をビジョンに掲げる中川政七商店の中川淳氏との出会いがあったという。「2018年に中川さんの『経営とデザインの幸せな関係』という本のセミナーが開催されたんです。その説明会の後の懇親会に呼んでいただいた際に、中川さんに、エントリーしてもいいですか?と尋ねたら「どうぞどうぞ」ということで、セミナーに参加しました。全6回のセミナーのうち、最終回が大プレゼン大会だったんですが、そしたら12チーム中『日本の麺 新麺ニューメン』が2位になったんです」。坂口さんとしても、お母様が築かれた強固なブランドとは別に、独自のオリジナルのブランドを作ってみたいと思っていた時だった。「これまでに積み上げてきたものがあるからブランドは作れるということを感じましたね。何もないところから新しいものをポロンと生み出すということはやっぱり不可能なんです」。ブランディングをする中で、やはり創業者であるお母様の凄さが改めて身にしみたと語ってくれた。

何度も諦めかけた
追い込みの2ヶ月

大プレゼン大会で見事に2位を獲得したのが11月21日。ここから年明けの2月13日から開催される“大日本市”という中川政七商店が開催する展示会に商品として完成させるために、2ヶ月間の怒涛の追い込みがスタートする。「中川さんがベタ褒めしてくださったので、そのままいけると思ったら甘かったです(笑)」。もう商品化は無理なのではと思った場面が何度もあったと坂口さんは振り返る。最初の難題は“お鍋1つ問題”だった。「12月25日のクリスマスの夜にメールが1本入ったんです。おだし用の鍋と麺をゆでる鍋を分けずに、鍋1個で調理できるようにしてください、と。コーヒーもドリップパックは売れますが、豆だけのコーヒーは中々難しい。それと同じで面倒くさかったら多くの人に買ってもらえない、という内容でした。”それ今日言う?”みたいな状況でしたね」。

オーダーしたのは
未完成のおだし

乾麺はゆでると麺から塩分が出る。おだしと一緒にゆでたら塩辛くなってしまうため鍋は2つ使ってつくるのが常識だった。だから、中川政七商店のオーダーに答えるべくもし1つの鍋でそうめんをつくるとしたら、麺から出てくる塩分計算して、おだしから塩を抜く必要があった。「おだし屋さんに、未完成のおだしをつくってほしい、と連絡を入れました。麺から何グラムの塩分出るから、おだしから塩分をぬいてくださいと」。おだし屋さんは完成したおだしをつくるのが当たり前、中途半端なおだしは作ったことがないと断られた。年の瀬だったということも一因だったが、「何度も何度も頼み込みましたよ」と坂口さん。そしてなんとかサンプルをつくってもらうことに。「年末年始はずっと最適な配分になるように試作を繰り返して、おかげさまでなんとか1つの鍋でできる目処が立ちました」。ところが、事はそう簡単には進まない。

500cc5分。
すべてをシンプルに

完成したサンプルを意気揚々と中川政七商店のところに持ち込んだ坂口さんだったが、一度はいいね!と返事をもらったものの、1月末にまたもう1つの難題を突きつけられることになる。「480㏄という分量は細かすぎます。500㏄5分になりませんか?と言われました。誰でも一発で覚えられるレシピに変えてくださいと。ブランドをつくるということは味や値段だけの話ではなく、こういうことなのかと、ほんとに勉強させてもらったと今では思います」。

おいしい即席麺に
こだわった理由

坂利製麺所には国内の航空会社のファーストクラスの機内食に採用された商品がある。喜養麺だ。フリーズドライという製法で作られるこの麺にもまたドラマがあった。「温かく煮たそうめんを“にゅうめん”と言うのですが、それを即席麺で最も美味しく召し上がっていただくためには、商品をフリーズドライで作る必要がありました」と坂口さん。ところがフリーズドライ麺を作れる設備を持つ会社は1カ所しかないため、恐る恐る委託加工を打診したところ、競合なってしまうので受けることはできない。と、その会社で喧々諤々と議論があったそうなのですが、その会社の部長さんが、当社の麺の良さ、価格帯などから、競合になることはない。フリーズドライ麺の良さを幅広く発信できるチャンスだと、その会社幹部を説得してくれ、フリーズドライ加工を引き受けてもらえました。坂利製麺所がなぜそこまでフリーズドライにこだわったのか?そこには一つの経営戦略があった。「フリーズドライの即席麺で私たちの商品に初めて触れてくださったお客様に、即席でここまで美味しいなら乾麺だったらどれくらいおいしいんだろう?と期待を持ってもらえるサイクルを作りたかったんです。ただ、売り上げが欲しいから即席麺を作るだけだったら、他の安価な加工方法はほかにいくらでもありました。次の世代にもつなげていくために、今では狙った通りのサイクルが作れています」。

地域とともに、
地域のために

これからのビジョンをお聞きすると坂利製麺所らしい答えが返ってきた。「大きな軸は変わらず東吉野でのそうめんづくりが基本になりますが、新たにお料理教室というのを考えているんです。冬場は東吉野にある高見山の登山と料理教室。春になったら薪割りとお料理教室。夏になったら渓流釣りや川遊びとお料理教室というふうに、四季折々の自然体験とお料理教室をセットに、そうめんをつくっている場所を知ってもらいながら、ファンを増やしていきたいと考えています。今は、”麺がおいしい”ということで買っていただけると思うのですが、これからはそんな麺をつくっている場所も含めてのブランドになればと思っています」。地域の冬場の産業をつくるために生まれた坂利製麺所。その想いは時代を超え、また新しい形で受け継がれていく。

 

坂利製麺所 公式サイト

坂利製麺所 ショップサイト

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