てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/24
一番古いけれど、
一番新しいもの目指す。
―後編―

歴史
2019.11.21

第24回

石上神宮 権禰宜
大塚敬彰 氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介していきます。今回は、前回に引き続き日本最古の神宮の一つである石上神宮で権禰宜(ごんねぎ)を務める大塚さんです。大塚さんは山形県の出羽三山の宿坊で生まれ育ち、東京の大学で学んだ後に天理の地にやってきた24歳。天理との縁、神主の日常、そして今思うことなどを空気の澄んだ石上神宮でお聞きしました。

神社と神宮の違いって
何ですか?

私たちは普段、神社と神宮を意識して使い分けてはいないが、ここは「石上神宮」。神社と神宮の違いって?大塚さんに聞いてみた。「神主の中でも賛否両論分かれる話題ですね。私個人の考えとして、一番わかりやすいのは『神社にはご本殿がないことが多い』ということです。例として挙げられるのは、大神神社は三輪山がご神体。建物の中におさめきれませんからね。神宮というのは『宮』という建物を表す漢字が示すようにご本殿があるところを言います。ただ、神様がいらっしゃるということに関しては何も変わりはありません」。

石上神宮に限らず、こういった神聖な場所に来ると自然と背筋がピンと伸びる。そこにいる神主さんも張り詰めた雰囲気をまとっているので気軽に声はかけられないのが正直なところだ。ところが大塚さんはとてもフレンドリーだ。「今日はどちらから来られましたか?」と優しく声をかけている。「参拝者に声をかけないようにされる方もいらっしゃいますが、私は積極的に声を掛ける方だと思います。宿坊育ちだからでしょうかね」。

基本的には場を盛り上げ、
人を楽しませたい。

大塚さんのサービス精神のルーツは、どうやら実家にありそうだ。「宿坊というのはお参りに来た人が気持ちよく泊まれるように創意工夫をこらす場所です。食事をしてすぐ部屋にこもってしまうのではなく、食事をしながら何か楽しいことをしたり、夜ぐらいはみんなで騒いで1日の疲れを取ってもらって、翌日はお参りに送り出す場所だと思うんです。そして心身共に気持ちよく、また地元に帰ってもらえるように奉仕する。そのためにみんなで力を合わせるという姿勢が自然と身についたのかもしれません」と語ってくれた。

最初に事を始める場所、
それが神社。

長い歴史の中で生活に溶け込んでいる神社や神宮。平成という時代が終わった今、あらためて神社の役割について大塚さんの考えをうかがった。「神社というのは一番古いけど、一番新しいものを目指しているとよく言われます。新しい事を始める時には、今でも神社がその役割を果たしています。例えば天皇陛下がご退位されて、皇太子徳仁親王さまが新天皇に即位されましたが、時代が始まる時の祭祀を行うのはやはり神社なんです。車のお祓いも、地鎮祭も。始める時にそこにあるのが神社なんだと思います」。話を聞くと神社はどんどん進化しているらしい。建物の中にエレベーターがあったり、車いす用のスロープができたり。最近では「鹿島神宮カード」という崇敬者向けのクレジット機能付カードも登場したという。時代に合わせたやり方に挑戦しつづけているのだ。「今までは神社に行ってお守りを受けたりしていたんですけが、鹿島神宮さんの場合は、カードで様々な決済ができるようにされたんです」。神社は実は、最先端のものを取り入れることに関しても積極的だと大塚さん。「古い習慣や風習に則りつつも、新しいものを取り入れるということは、時代が変わっても『人に寄り添っている』という風にとらえてほしいと思います」。

未来に備え、
今を思い切り吸収したい。

「関西、できれば奈良にいたいなと思っているんです」と大塚さん。大塚さんが関西にこだわるのには訳があった。それは仏教の存在だ。「うちは神社の宿坊ではありますが、もとはお寺と同じような機能をしていたんじゃないかと思うんです。だから仏教との結びつきも強い。仏教からも何か取り入れられないかなと考えています」。これまでのやり方を踏襲しながらも、大きく変化する時代の中で、あらゆる状況に適応できるようになっておきたいと将来の展望を話してくれた。「何かにぶつかった時、関西で学ばせてもらっていることは自分の強みになると思います。だから今は修行あるのみです」。笑顔の奥に、ここで一つでも多くのものを吸収しようという心構えが見てとれた。

 

 

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