てんりせいかつ

てんりせいかつ VOL/42
ハイカーにも、世界にも、萱生の柿を伝える
―後編―

くらし
2023.05.01

第42回

松田果樹園+

松田崇史氏 と 松田庸子氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介しています。前回に引き続き、36代目の農家として「松田果樹園+(プラス)」を営んでいる松田崇史さんと松田庸子さんを紹介します。二人は代々の果樹園を継いで、6年になりました。地域の課題、これからの取り組み、萱生町の暮らしについて、天理市萱生町の果樹園で伺いました。

地元の果物を味わい、
「歩いて、楽しかった」と帰ってもらう

柿を中心に、キウイフルーツ、八朔、みかんを栽培している崇史さん。その果物を活かして、加工品を開発している庸子さん。現在、「松田果樹園+(プラス)」はジャム3種類、ジェラート5種類を販売しています。その次は?

「今後の展開として、キッチンカーができてきますので、ここで秋にカットフルーツの販売をしたり、暑くなったらジェラートやスムージー、ドリンク系をしたりします」と崇史さんは言いました。「山の辺の道を歩かれるハイカーの方を中心に、産地のPRを兼ねて、山の辺の道の良さを発信させていただけたらな」。

日本最古の道と言われる「山の辺の道」。春に山が笑い、秋に柿が色づく景色は、ハイカーに人気があります。松田果樹園+の庭からは、柿畑が広がり、数百メートルの西殿塚古墳の杜も見えます。最近、二人はこの庭にテーブルと椅子を出して、飲食スペースも作りました。

「冷凍庫を買ってきたから、春ぐらいから、ジェラートの看板を出して、『ここに座って、どうぞ』という感じでいけたらと思います」と庸子さんは言いました。「山の辺の道を歩いた友達は、『歩いて、疲れるから、休憩できるところあったら、絶対行く!』と言っていました」。

果物を味わいながら、その果物が育てられた風景を見たり、風を感じたりするところです。山の辺の道を歩いた人にどんな印象を残したかは、崇史さんにとって大切です。「歩いた人に『歩いてんけど、しんどかったな』じゃなくて、『歩いて、楽しかったなー』って帰ってもらいたいね」。

産地を知ってもらう大切さ
萱生町ならではの柿

「最初、やっぱり3年ぐらいは、売り上げの面でやっていけるかどうか、不安だったけど、乗り越えました」と崇史さんは初期を振り返りました。「今は、販路拡大をしつつ、どうやってこの集落と産地を維持していくかという方面になっています。やっぱり、放任の畑が出る、という課題ですね。なんとか、産地のブランド化、より多くの方に知ってもらえるように、活動していかなあかん」。

産地としての有利販売を増やしたり、産地のブランド化で知名度を上げたりすることは、地域の維持とつながるかもしれません。「生産者の手取りが上がってくると、参入してくる人も多分増えるかな」と庸子さんは話しました。「一軒で言っても、しかたがないから、萱生でまとまって、『天理の萱生で、こんなに美味しい柿を出していますよ』と伝えるのが大事です」。

この地域ならではの柿だからこそ、崇史さんはその違いを世界に伝えたいのです。「他の地域と同じ栽培をしても、萱生の柿は味と色が違います。知り合いから注文をもらって、他の地域のと『味が全然違う!』って、みんな言っています。同じ奈良の柿の中で、もっと『天理・萱生』をアピールして、『違うんだよ』と謳っていかなあかん」と。

一年かけて、育つ柿

冬場に枝を落とす作業から、春の「摘蕾(てきらい)」へ。初夏の「摘果(てきか)」から柿剪定へ続く柿栽培は、一年中の仕事です。9月からは、待ちに待った収穫と出荷の作業でバタバタしています。

「朝から夕方までは収穫をやって、夜はなかで柿の選別をやったり、箱詰めをやったりします。夜2時、3時まで、伝票のチェックとか、時間がかかります」と崇史さんは言いました。その翌朝、収穫作業が続きます。「朝は6時ぐらいに起きないと。睡眠時間は3時間ぐらいかな」。

「一時に集中するから、大変は大変だけど、のんびりしている時はのんびりしているし、幸福度は高い仕事だと思いますね」と庸子さんは言いました。「生活していく中で、収穫の中に喜びもありますし、四季も感じられますし」。

よその柿を知って、自分の柿を知る楽しみ

一年をかけて、育てた柿を味わう時、崇史さんはどんなことを考えるのでしょうか。

「自分の柿を食べる時、やっぱり甘さ、糖度、食感を常に意識していますね」と。自分の柿だけではなく、他の農家の柿も食べるようにしています。

「スーパーに行ったら、かならず柿を買います。吉野の柿であったり、和歌山の柿であったり、百貨店で売っている新潟の柿であったり。『どうなんかな』と思って、かならず買います!」と崇史さんは大きな笑顔で言いました。「糖度計も持っていますので、糖度を計って、食べます。『どうや、うちと比べて』。また、萱生町の柿も買います」。

「自分の柿の立ち位置はどの辺かを常に確認しますね」と庸子さんは言いました。松田果樹園の柿は甘さが十分ですが、固さを高めることが課題です。「どうしても果肉が柔らかい、吉野と比べて。それをどうやって固く作るかということ。届いたら、すぐに召し上がりになって、その固さがちょうどいいように、というところを最近意識していますね」。

応えを返してくれる柿、可能性のある場所

自然、歴史、農業に恵まれた萱生町。自分が生まれて育った集落について、崇史さんは思いを語ってくれました。「小さい時から、奈良盆地の景色と夕日を見ながら育って、やっぱり夕日が一番好きですね。日本最古の道「山の辺の道」が通っているということで自信を持って、しゃべれますし。それに伴って、柿の色が鮮やかになって、糖度が高い。手をかければかけてあげるほど、柿の味は応えを返してくれますね(笑)。そこは一番のやりがい、『美味しい』や『こんなん食べたことない』と言っていただくこと」。

「もちろん住んでいて、気持ちいいし、静かやし、いいところやし」と庸子さんも話しました。そして、萱生町では、できることがまだたくさんあります。「可能性がある場所。果樹には適してるし。柿だけでじゃなくて、他のいいものもできますし、そういう意味で可能性があるんやなと思います」と庸子さんは言いました。

松田果樹園+のホームページ

松田果樹園+の公式インスタグラム

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