第40回
飯田製菓
第2代・代表者 飯田一夫 氏
「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介しています。前回に引き続き、あられとおかきを製造している飯田一夫さんを紹介します。今回は、飯田製菓の一週間の工程、一年間、日々の過ごし方を紹介することによって、一夫さんの丁寧で優しい人柄を感じていただければと思います。天理市石上町の工場でお話を伺いました。
田んぼの手入れから始まるあられ
もともと米農家であった飯田製菓は、創業時から自家産米を使っています。田んぼが工場の裏から広がり、奈良盆地の西に連なる山脈がくっきりと見えます。家業を継いで12年になる飯田一夫さんは、製菓の仕事と並行して、この約1町(1ヘクタール)の田んぼで製菓で使うお米の半分ぐらいを作っています。
「4月の下旬から、まず、苗づくりをする。5月の連休には家族が寄って、籾蒔きをして、10月20日ごろかな、稲刈りをするまで、田んぼの仕事があるから、結構忙しい」と一夫さんは言いました。「田植えをしてから、後は何もないような感じだけど、草が生えてくるから、草刈りをせなあかん。すぐ伸びるから、8月、9月に月2回ぐらい。しんどいけど、草刈りによって、餅が全然違ってくるから」。お米が餅になり、餅があられになります。美味しいあられを作るのは、田んぼの手入れから始まります。
一年間かかるお米、一週間の製菓と現場
一年間かけて育てたお米を秋に収穫します。そのお米を使って、5日間かかってあられを製造します。「1日目はお餅つきだけ。あくる日は、冷蔵庫の中に入れて、冷やしている。冷蔵庫の温度はだいたい1℃ぐらい。マイナスになったら、凍ってしまうからね。3日目はもちを切る日。切って、半乾きにする。その次の日は仕上げの乾燥。その次の日に焼く」。
焼く日は一夫さんを含めた4人体制です。「今までは自分は味付けだけを担当していたけど、焼く方が体調を崩して休んでから、焼きもしゃんなんし、味付けもしゃんなんし。焼きながら味付けもして、大変で、動き回ってます」。
焼き立てあられの香りで溢れる、温度が39℃に近い工場で、スタッフのおばさんは焼きあがった「のり千枚」を丁寧に集めていました。茶色に焼かれた醤油のあられが光り、その上にのりの四角がぱらぱらと付きました。スタッフのおじさん2人も機械の灯りから出てきた「磯衣マヨネーズ」をざるで集めたり、一夫さんの釜へ運んだりしました。一夫さんはあられを釜に流し、マヨネーズの味付けをしてから、ひしゃくで混ぜました。できあがったあられを大きな台で冷ましてから、おじさんたちはまたそれらをざるで集め、保管容器へ納めました。
あられが機械から流れ続け、4人はずっと動き回っていました。製菓工程はいったんこの日に終わりますが、翌週にはまたお米を洗い、お餅つきから始まります。
年末年始から商売で忙しい
春から秋まで田んぼの仕事があり、稲刈りが終わっても、飯田製菓はまだ忙しいです。「商売してて、一番忙しいのは、やっぱり12月。12月はお歳暮の時期で、よう出るな。」と一夫さんは言いました。注文の量に対応するために、5日間の工程を工夫する必要があります。「普段、1週間に1回餅をついて、製品を作るパターンだけど、11月は餅をついて、焼いて、冷蔵庫に入れる。冷蔵庫が空いて、その次の日に餅つきをするというパターン。回転を多めにしていて、目いっぱい製品を作るという感じ。売る方で忙しいのは12月、普段の一カ月の3倍ぐらいやね。製品がなくなるから、11月に目いっぱいで作ってます」。
注文の波が3月ごろまで続きます。「3月から6月ごろまでは、少し暇かもしれない」と一夫さんは笑いました。
朝の散歩と準備で、一日を迎える
一日の仕事を始める前に、一夫さんには愛犬とのゆっくりの時間があります。「犬は2匹いるけど、性格がちょっと違う。黒い豆柴は『ココちゃん』。4歳ぐらいで、すごい喜んでくれる。もう1匹は『コタロウ』。9歳ぐらいやけど、もともとちょっと早くもらったから、それで慣れていない。人に対しても、犬同士もあかんけど、散歩には、すごく喜んで行くね」。お散歩の道は田んぼの辺りです。2匹が一夫さんにとっての貴重な存在です。「何かあった時、犬はそこにいてる。犬をしょっちゅう撫でられる。ココちゃんはひっくり返ってお腹を出して、喜んでお腹を触らしてくれる(笑)。気分転換になるねえ」と。
お散歩の後、一夫さんは工場でその日の準備をします。「餅つきをする日、ボイラーのスイッチを入れて、蒸して、つけるまではだいたい30分かかるから、ある程度段取りをしとかんと。朝、みんなが来た時に、すぐに餅つきできるように、ある程度準備時間がかかるんです」。
あられを焼く日にも、少しの準備をするだけで大きな効果があります。「醤油を温めておく。醤油は冷えたのと、ちょっと温めておくのとでは、製品が結構変わるからね。だから、醤油を温めとくんです」。
終わったと思っても、最後まで丁寧にする
田んぼの向こうの山に日が暮れ、スタッフのみなさんが帰った後、一夫さんは倉庫に一人で製品を運びます。「古い製品を前に出して、新しい製品を奥に入れる。みなさんがバタバタして、なかなかできへんから、置いてもらうだけで、あとで自分でやるんです。ある程度掃除してくれるけど、できへんことがあって、そこを自分一人で水洗いをします」。静かな笑顔で、一夫さんはなかなか終わらない一日を話してくれました。「終わったと思っても、あとは袋詰めとか箱に詰めて包装するから、夕飯食べてからも、いろいろするから、結構毎日ずっとしてる。日によっては、2人分の仕事をしてるわ(笑)」。
田植え、草刈り、稲刈りをした1年間。朝の準備、動き回る日ごろ、夜の袋詰めをした一週間。一夫さんはそういう時間と丁寧な作業を大切にしてきた想いをあられに込めて、これからも製菓をしていきます。