てんりせいかつ

てんりせいかつ VOL/43
家族で始めた工房で、笑顔を作り続ける
―前編―

くらし
2023.08.09

第43回

障がい者生活介護事業所「ぽかぽか工房」・理事長

堀内誠氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介しています。今回は、障がい者生活介護事業所「ぽかぽか工房」の理事長として活動している堀内誠さんです。ぽかぽか工房が始まったきっかけ、工房を受け継いだ時の想い、福祉の活動で大切にしていることなどについて、天理市南六条町の工房で伺いました。

温かい気持ちで、みんなのための場所をつくる

田んぼが広がる天理市の西部。平屋建の白い建物に「ぽかぽか工房」とカラフルな字で看板に書いてあります。庭で作業をしていた二人は「どうぞ、どうぞ」と中へ案内してくれました。工房の壁に絵画が何枚か飾ってあり、色とりどりの糸を織る「さをり織機」数台と植木鉢数十個が並んでいました。堀内誠さんは挨拶をしてから、植木鉢を指しました。「数年前から、私たちはコーヒー豆を少し育てています」と笑顔で言ってから、奥のテーブルへ誘ってくれました。

この土地がもともとご家族の田んぼで、堀内さんはここで2歳下の妹さんと一緒に育ちました。「妹は重度の障がいがあって、養護学校に通っていましたが、養護学校は18歳で卒業になります。その先の活動の場所がないから、当時の保護者が集い、何か自分たちの子どものためにしたいと願い、サークルのような活動が始まりました」。平成8年に堀内さんの両親は自宅の一部屋を使って、「さをりひろば香織福祉作業所 ぽかぽか工房」を立ち上げました。「『ぽかぽか』が温かくて、それを考えたのは母でした」と堀内さんは思い出しました。

フランスから天理に帰り、工房を立て直す

中学生のころから絵を描いていた堀内さんは、絵の勉強のためにフランスに行きました。そこで写真の楽しさに出合い、奥さんにも出逢いました。フォトグラファーとして働きながら、堀内さんはパリで奥さんと暮らし、子どもも生まれました。フランスに5年間住んでから、家族のために天理市に帰ることにしました。

天理市に帰り、堀内さんはぽかぽか工房の活動にも取り入れられている「さをり織」の会社で広報の仕事をすると同時に「ぽかぽか工房」の手伝いもしました。そんな中、障害者自立支援法の施行により小規模福祉作業所であった「ぽかぽか工房」の将来が不透明になりました。そこで、平成24年に彼は特定非営利活動法人誠優会を立ち上げて、生活介護事業所「ぽかぽか工房」を開所しました。「やっぱり崩したくなかった。僕の両親が妹のために立ち上げた施設だったので、その施設に集っている方々のためにも、何とかしたい、ぜひ、もう一回立て直したいと思いました」と堀内さんは振り返ります。

自分のできることで、笑顔を作る

堀内さんは「ぽかぽか工房」の活動を小さなところから始めました。「まず、ここに集ってくださっていた利用者さんたちを笑顔にしようと、少しずつ成長していったらいいと思いました」。それを機会に、自分のできることを「ぽかぽか工房」に取り入れ始めました。「僕は絵も描けるし、写真も撮れるから、アートに特化したことができればいいなと思って、アートを楽しんでもらえる施設を最初に目指しました」。

一歩目はアートの楽しさを知っていただくことでした。「僕自身が絵を描く楽しさを知っているから、まず『楽しいやろう』というのを見せる。そうしたら、全然興味がない人でも、『何してんの?』と入ってくるよね。『描いてみる?』と紙とクレパスをあげると、描くよね。自分が楽しさに気づいたら、ほっといても描くようになります」。

堀内さんは壁から絵画一枚を下ろしました。「うちの利用者さんのお一人がこれを描きました。櫻井翔を知っていますか?」とジャニーズのアイドルを描いた絵画を大きな笑顔で見せてくれました。「アイドルが好きな女の子がこれを描きました」。「ぽかぽか工房」の壁に飾ってある絵画はみんな明るくて、絵を描く楽しさを感じさせてくれます。

アートから木工へ、特別な成功体験の大切さ

「私は絵の先生だし、もう一人のスタッフは木工の先生だし、みんな、それぞれのスペシャルティを持っている。そういう特技のある、専門の人たちがいっぱい集まってきて、いいチームになっています」と堀内さんは続けました。木工の先生は自分のスキルをみなさんと共有しています。例えば、「ぽかぽか工房」で日常的に使っているテーブルやツールは利用者さんたちが作りました。また、みなさんは奈良県産木材を使ったボートも作りました。「市役所の池に浮かせて、交代で乗りました。みんな本当に喜んでいました」と堀内さんは大きな笑顔で思い出しました。「ありきたりのものを作っていても、意味がないから、みんなにびっくりしてもらえるものを作りたいです」。

どうしてびっくりしてもらうことが大事なのかを説明してくれました。「障がい福祉の事業の中でも、特別な成功体験を大事にしています。保護者の方々は自分の価値観の中でずっと子どもを見ていると、子どもたちはずっと子どものままであったりします」。保護者は時々、それを負担を感じることがあります。特別な成功体験はそういう負担の緩和につながります。「ここで『このテーブルを自分の子どもが作りました!』や『ボートを作りました!』となると、自分が体験したことがないことや自分にはできないことを子どもがしているということで、子どもを認めるようになって、リスペクトにもつながる。子どもを尊敬できるというのは、すごく大事なことです」。

障がいがあるかどうかに関わらず、親は自分の子どものことを喜んで話します。「どなたも自分の子どもがいい学校に行った、こんな仕事をしてるねん、こんな趣味を持ってるねんっていうことを自慢できることが大事です。お父さん、お母さんはやっぱり笑顔で話されるじゃないですか。本人の自信にもなるし、家族の喜びにもなる」。

堀内さんの妹とその友達のための温かい場所として始まった「ぽかぽか工房」は、今年、27年目を迎えました。工房を引き継いだ堀内さんは、人の笑顔を作りながら、アートや木工などの様々な活動を入れました。中編では、地域の休耕田の復活や、地元の企業との協働や、地域に根ざした福祉の輪を少しずつ広げる活動を紹介します。ぜひ、ご覧ください。

ぽかぽか工房のフェイスブック

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