第44回
障がい者生活介護事業所「ぽかぽか工房」・理事長
堀内誠氏
「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介しています。前編に引き続き、障がい者生活介護事業所「ぽかぽか工房」の理事長として活動している堀内誠さんです。ぽかぽか工房のみなさんは地元の環境を大切にしながら、近所の人と交流をしたり、さまざまな企業に協力してもらったりして、活動の輪を広げました。天理市南六条町の工房で堀内さんはその取り組みについて話してくれました。
休耕田の復活で、人と人はつながる
両親が立ち上げた「ぽかぽか工房」を受け継いで、堀内誠さんはアートや木工などを入れながら、障がいのある利用者さんたちの笑顔を作るように活動してきました。最近、みなさんはどういう活動で忙しいでしょうか。「今は、お酒を一生懸命作っています」と堀内さんは言いました。「いろんな人たちがつながって、まちづくりになったらと思って。めっちゃ儲からないです、マイナスですけど」と少し苦笑いをしました。堀内さんは立ち上がって、瓶を棚から下ろしました。瓶のラベルには、赤い屋根がついた建物と大きな青空の水彩画でした。「この絵はぽかぽか工房なんです」と堀内さんは微笑みました。
近年、ぽかぽか工房の近くにも休耕田や耕作放棄地が増えてきました。「身長より高い、2メートル以上の草が生えているでしょう。農家の方々が高齢化して、作業ができなくなってきています」。市農業委員の皆さんにも手伝ってもらいながら、ぽかぽか工房のみなさんはその草を刈って、田を耕し、田んぼを復活しました。その活動は周りのコミュニティとの交流にもつながりました。「そこを障がいのある人たちが耕すことによって、今まで偏見を持っていた方々であっても、気持ちが変わってくるかもしれない。作業をしていたら、普通に挨拶をしてくれて、『暑いやろう』と声をかけてくださったり、飲み物を差し入れたりしてくれるようになったんですよね」。
地元に根付いた日本酒で、輪を広げる
堀内さんは幼稚園のPTA活動に参加していた時、そこで出逢った酒蔵「稲田酒造」の稲田さんと一緒にイベントを企画したりしました。稲田さんと相談して、ここで育てた山田錦のお米で日本酒を作るようになりました。堀内さんは、雲一つない秋の青空のように垣根のない社会になるようにとの想いを込め、お酒を「み楚ら(みそら)」と名付けて、ラベルには青空とぽかぽか工房を水彩画で描きました。毎年、ぽかぽか工房のみなさんは酒蔵や販売店や他の関係者と一緒に田んぼの作業をします。春に長靴を水に突っ込み、手で苗を植えて、秋に稲刈りをします。「み楚ら」は今年で4年目になり、地元に根付いた取り組みになってきました。「酒蔵の稲田さんや市内販売店の登酒店さんと酒工房マルショウさんは田植えから稲刈りまで参加してくださる。また、そのストーリーをお客さんに語ってくださる。『この酒はね、ぽかぽか工房はね』と。そうやって、また広がっていく、友達が増えていく」。
自分たちも助けて、分かってもらう
休耕田の復活から始まった事業は、酒造りにも広がりました。地域に貢献しながら、より多くの人に理解していただく努力をしています。「福祉だからといって、助けてもらうばっかりじゃなくて、自分たちも助けることによって、理解してもらうということもできる。できたお酒をおいしく飲んでもらえることによって、それがまた地域の方々に喜んでもらえるし」と堀内さんは言いました。ぽかぽか工房の想いをこめた日本酒だからこそ、飲みたくなる人もいることでしょう。「最近、『日本酒離れ』もあるけど、『日本酒をぽかぽか工房が作ってるんやったら、飲んでみようかな』って思ってもらえるかもしれない。産業にとっても、新たな客層を捕まえるチャンスですね。みんなが喜べることによって、つながっていて、それはまた続いていきますよね」。
毎日は蔵で、「もろみ」との対話
春にお米を植え、秋に稲を刈り、冬から酒造りをします。今年、堀内さんは麹づくりから最後の櫂入れ作業まで、毎日、酒蔵に通い学びました。蔵の杜氏さんは最初の一口の利き酒もさせてくれました。「すごく光栄でした。言葉にならない、みんなの想いが詰まっているので」と彼は関わってくれたみなさんを思い出しました。
酒造りには、「もろみ」という生き物があり、もろみの様子を見て、臨機応変に対応することがとても大事です。「声を聞いて、香りを嗅いで、もろみの動きを見て、自分はどういう風に助けてあげたらいいのかなと見る。『今日は動かしてあげたいかな、寝かしてあげたいかな』と対話しながらやっていくというのは、福祉や人と関わるのと同じような感じです。とても貴重な経験をさせていただきました」。
休耕田の復活で始まった取り組みは、お米を作ることだけではなく、仲間を増やすこととお酒造りづくりにもつながりました。「なかなか儲からない」と堀内さんは言いましたが、この取り組みは地域のためのプラスになっています。
南六条町から約16キロ離れた天理市の高原地域、福住町での活動を後編『多世代で助け合う、賑わう高原地域』で紹介します。地域のニーズに応えながら、堀内さんは天理市高原地域振興館で多世代の交流をつくり、ぽかぽか工房の輪を広げています。ぜひ、ご覧ください。