てんりせいかつ

てんりせいかつ VOL/47
おもしろがりながら、世界を変えていきたい。
―後編―

くらし
2023.12.21

第47回

森のようちえん ウィズナチュラ・保育士

佐野有賀 氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介しています。今回は、奈良で「伝えるを育む」をテーマに活動する編集ユニット「TreeTree(ツリーツリー)」との連携企画の後編です。昨年開かれたTreeTreeの編集講座を受講した高原地区在住の村田飛花さん(編集:赤司研介氏)が「森のようちえんウィズ・ナチュラ」で保育士として働く佐野有賀(ゆか)さんにお話を伺った記事をお届けします。

試行錯誤の末にたどり着いた

「聴き合う保育」で目指すもの

「森のようちえん ウィズ・ナチュラ」で、保育士として子どもたちを見守る佐野さんは、日々、保育を通してウェルビーイングな社会づくりを探求をしています。

子どもと、その周りの大人と対話を重ねて、心の声を聴き合いながら、「最適解」を考える。その環境で育った子どもたちは、自分の心を大切にし、同じように他者や社会、自然界へ想いを寄せられる人になるのではと佐野さんは感じています。

ウィズ・ナチュラへ視察に来られた方からも、小さな調和社会が育まれているという声を多く聞くそうです。

そんな、一般的な保育とは少し異なる道を進む佐野さんは、どんな経緯で今の保育を志すに至ったのでしょうか?

子どもの頃から人と関わることや、運動・音楽・表現・アート、どれも大好きで得意だったという佐野さん。それらが仕事に繋がる保育士に興味を持ち、小学校の卒業文集にも「保育士になりたい」と書いたといいます。

「母が保育士で、その影響もあったと思います」と話す佐野さんが就職先に選んだのは「考えること」を大事にする幼稚園。そこで、創造するおもしろさとは何か、指導するとはどういうことか、自らに問い続けました。

「毎日日誌を書くことも大変でしたが、細部まで考え抜く体験の積み重ねがなかったら今の私の保育はない、と思えるほど先輩からの指導が入ったし、実際やってみてどうだったかを検証する毎日でした。」

佐野さんがその幼稚園を辞めることになったのは、勤めて13年目の頃。勤務中に足に大きな怪我をしてしまったことがきっかけでした。それでも半年ほどまともに歩けない状態のまま、タクシーで通いながら担任を続けていると、ある日、信頼する友人から「何を大事にしたいの?」と𠮟られたそうです。

「本当に真剣に𠮟ってくれて、頭を『ガツン!』と打ったような衝撃を受けました。『私が大切にしたいもの?』。自分の声をちゃんと聴いたのは、もしかしたらそのときが初めてだったかもしれません。気持ちを優先し、自分に休むことを許したら、全身の血が指の先までぶわぁーっと流れるような『緩んでいく感覚』があって、そのときに、心のどこかで『いったん立ち止まりたい』と思っている自分がいたことに気がついたんです。」

保育の世界を離れた佐野さんは、フラワーセラピーやカウンセリングといった心理学、オーガニックレストラン、シェア暮らしなど、今までやってみたかったことや学んでみたかったことに片っ端からチャレンジしていきます。その過程では、さなぎのように家に引きこもった時期もあったそうです。

お給料があり、休日も確保されていた暮らしから一転、「自分が何をしたいのか」を探しながら、「自分で生み出していく」なかで、様々な恐れや不安と向き合う日々を過ごします。再び保育の世界へ戻るきっかけとなったのは、それから5年ほど経った頃に訪れたある赤ちゃんとの出逢いでした。

「立ち姿がすごく凛とした赤ちゃんで、目がとても綺麗でした。その瞬間に「子ども」というキーワードが再び私の中にやってきたんです。」

それから子どもについて学び直し、やがて仲間たちと「誕生」「命」「育ち」をテーマにした親子向け教室や子育て支援活動をスタート。そこで生きる力のすばらしさを実感すると共に、子どもに表れている現象が親にも同様に表れていることに気がついたといいます。

「赤ちゃんが眉間にしわを寄せて泣き続けていたり、身体的な不調が見られるとき、お母さんが不安を抱えていて、それが赤ちゃんに移っているのかなと思うことがあったんですよね。それで、お母さんに話をしてもらって、緩んでもらうと、赤ちゃんも安心するのか穏やかになっていく。そんな姿にたくさん出会いました。」

親と子どもの声を繋げるサポートをするなかで、互いをより理解し尊重し合っていく親子の姿を目の当たりにし、いつしかその変化は佐野さんの心にも影響していきました。

赤ちゃんと目を合わせ対話することが、お母さん自身の心を感じる力を育んでいくと実感した佐野さんは、「自分軸で子どもと関わり、子育てをもっとおもしろがれるお母さんが増えていくことが平和に繋がる!」という考えにたどり着きます。

「おもしろがるって大事なことで、それだけでも、その先の世界の方向性にも関係してくると思うんです。誰よりも私自身がおもしろがりながら、これからも保育と向き合っていきたいと思います。」

インタビュー中、たびたび佐野さんが言葉にする「平和」とは、「その人がその人らしく生きていくこと」で自然に調和していく世界であり、その世界観は、多様な生き物が共助共生している森に似ていると感じました。

そんな平和な世界を目指して、佐野さんは人の土台をつくる幼児期の親子と心の声を聴き合いながら、今日も現場で探究を続けています。興味のある方はぜひ一度、ウィズ・ナチュラのフィールドを訪れてみてください。

前編へ

BACK
Share

この記事をシェアする