てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/01
自分の本性と向き合い、
人間らしい営みを取り戻す場所へ。
—前編—

歴史
2018.05.15

第1回

奈良県立図書情報館館長 千田稔 氏
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graf代表/天理市ブランディングプロデューサー 服部滋樹 氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活動されている魅力的な方々を訪ね巡りご紹介していきます。記念すべき第一回の今回は、特別対談として、天理市のブランディングプロデューサーを務めるgraf代表服部滋樹氏が、奈良県立図書情報館館長であり、歴史地理学者の千田稔氏を訪ねました。大和盆地の東側、連なる山々の麓にある「山の辺の道」をめぐりながら、天理の持つ地理的な魅力、可能性についてお聞きしました。

ガイドブックを捨てて想像力を膨らませて歩く

最初にふたりが落ち合ったのは、天理駅からバスで15分、山の辺の道ハイキングの拠点となっている「天理市トレイルセンター」。ここは汗を流せるシャワー設備、ロードバイクを停めるバイクラックも備えた、まさに「めぐる人」のための拠点となっている。この日はあいにくの雨。広い軒下で雨宿りをしながら静かにふたりの会話がはじまった。「今日は雨が降っていますが、そのおかげでかえって緑が映えて美しいですね」と館長。「ただ歩くだけでももちろん気持ちいいですが、日本書紀や古墳時代のことを知っているとさらに面白いんでしょうか?」と服部氏が千田館長に尋ねると意外な答えが。「もう歴史学者的な見方で歩いても面白くないんじゃないかと僕なんかは思うんです。つまりね、古墳が大きい=人々を支配していた権力者が埋葬されている、という発想ではなく、もしかしたら政治的な権力者ではなくて、埋葬されている人はこの辺りの人々に慕われた人だったんではないかなと想像してみるとか。そうすることでもっと違った楽しみ方が出てくるのかもしれません」。「人間力みたいなものを想像するということですね」と服部氏。「そうです。政治的な権力者ではなく、ああこんなに立派な古墳をつくってもらった人はどれほどの人徳や宗教的な力、人間性を備えていたんだろうと。そんな発想で古墳を見て歩くとまた違った発見があると思うんです」。

パワースポットではなく、ここは“パワーライン”

その後二人がめぐったのは櫛山古墳。天理市柳本町に位置するこの古墳は、4世紀後半に造成されたもので、大和朝廷創始者のお墓である崇神天皇陵と隣接する場所にある。古墳の前まで到着し、雨に煙る山の辺の道から見えた古墳周辺の濠を前に二人は感嘆した。

「本当に美しい場所ですね」と服部氏。横には同じように景色に見入る千田館長。館長は携帯電話を取り出し写真を撮るといった一幕も。

「千田館長、山の辺の道はパワースポットではなく『パワーライン』だと以前おっしゃっていましたが、あらためてあれはどういうことなのでしょうか?」と幻想的な風景を前に服部氏が千田館長に尋ねた。「山の辺の道は活断層に沿って延びているんです。だからスポットではなくライン。活断層は地震が起こりやすい場所ですので災害対策はもちろん大切ですが、大地を揺るがすほどの強大なエネルギーを地面から放出する場所とも言えます。実際、活断層の上には聖地が多く、一番強いエネルギーを持つ場所と言われているのが3つの宗教の聖地であるエルサレムだと言われ、これは偶然ではないと思うんです」。磁石を持っていくと針がどこも指さない0磁場の場所があるという話もある。千田館長は「私は霊能力者ではありませんが、地下から何らかのパワーが湧いてくるところではないかと思います。卑弥呼がこの地域で邪馬台国を築いたと言われていることも、日本最古の神社の一つである石上神宮があることも、天理教が発展したことも、そういった影響は小さくないと思いますよ」とこの地の力について教えてくれた。

疲れたらふっと立ち寄れる場所を暮らしのそばに持つ贅沢

傘に雨つぶが当たる音が弱まり、足元の落ち葉を踏みしめるシャキシャキという音が耳に心地いい。「最近は、観光地として有名なところよりも、未開の地に好んで行く人が増えているようなんです」と服部氏。「天理市もわからないから行く、知らないことを知りたいから行くという気持ちに応えられる場所なのではないか」と続ける。それを受け千田館長が本当の意味でのパワースポットについての考え方を話しはじめる。「これまでの観光地は誰かがつくったものだったんですよね。パワースポットなんていうのは言うなれば観光PRの産物です。そういうことではなくて、一人ひとりがそこに行って気持ちがいいなあと思うところを見つけてほしいんです」。誰にも教えたくない自分だけの場所を持つことが豊かさの一つだとすると、天理にはそんな魅力がまだまだあるのかもしれない。さらに千田館長は日々の暮らしの傍にあるパワーラインの価値についても語った。「パワーラインである山の辺の道をめぐれば、自分だけのパワースポットがきっと見つかるでしょう。そんな場所を暮らしの近くに持てるという意味でいうと天理はとても魅力的なんじゃないでしょうか」。服部氏は天理でみかける夕方の風景がとても印象的だと語る。「このあたりは、夕方になると夕日の写真を撮りに来る人もすごく多いんです。しかも地元の人が撮っているんです。何千年前の人も同じ景色を見ていたと思いを馳せると、そんな場所に観光で来るのではなく、実際に暮らしているというのはとても贅沢なことのように思います」。「あとは、やはりこういった土地ですと、自分の感性が研ぎ澄まされるんですね。それができる場所っていうのは、そうあるものではありませんよ」と館長。話は尽きず、このあと二人は夜都伎神社へと向かう。

後編につづくーー

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