てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/03
ホタルが舞い、魚が跳ね、
子どもたちの声がこだまする山。
—前編—

くらし
2018.07.27

第3回

長滝復刻堂本舗

小西通夫 氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活動されている魅力的な方々を訪ね巡りご紹介していきます。今回は、天理市の山間部にある長滝町で活動されている長滝復刻堂本舗の代表である小西さんを訪ねました。小西さん自身は造園業を営みながら、仕事のかたわらで「昔の風景」を取り戻す活動に尽力されている方。小西さんが子どもの頃に見ていた風景とはどんなものだったのか。ご自宅でお話を伺いました。

小さい頃に見た原風景を
もう一度取り戻したい

天理駅から車で東に約20分。「長滝」と書かれた小さな看板を左に折れ、しばらく進むとその集落は姿をあらわす。天理市長滝町。町内を流れる通称島田川がつくりだした長い滝があることが町名の由来だ。小西さんはこの町で育ち、今もずっと暮らしている。自然が失われているという印象は受けないくらい木々に囲まれた緑豊かな場所だが、昔の風景は今とは違ったと小西さんは言う。「子どもの頃は夏になると、庭に出るだけでホタルが飛んでいたし、川には魚が泳いでいて、カブトムシもクワガタもいましたよ」。その光景がなくなっていることに仲間との何気ない会話の中で気がついたのが9年前。自身が好きだった光景を取り戻したいと立ち上げたのが、長滝復刻堂本舗のはじまりだった。

「竹と杉で通れなくなった長滝への道を整備して、クヌギの木を植えて。そこにはホタルもクワガタもいて、川岸にはササユリが揺れている。そういう光景を取り戻したいと思ったんです」。重機の操作や木々の扱いは造園業を営む小西さんの経験がフルに活かされる。集落の有志を募り、十数人のボランティアで、ふるさとの景観を再生する活動は目に見える形で成果を上げている。

ホタルは買うと相当高い。
それなら繁殖させよう!

「ホタルって買うと1匹400円とかするんです。寄付金をあてて2年くらい続ければすぐに増えると思っていましたが甘かったですね」。小西さんたちはホタルを買って放ってみたが、まったく増えないという苦い経験をした。成虫を買っていたら資金が足りなくなると繁殖にチャレンジ。「メス3匹、オス5匹を飼ってみたら、卵から2000匹くらい孵ったんです。成功した!と思いましたが最終的には20匹くらいしか生き延びなくて。その貴重な20匹を春に川に返してやりました」。ホタルで商売している人がいるということは絶対に繁殖はできる。そんな信念を持ち小西さんは今もホタルの繁殖の研究に勤しんでいる。「この年になるともう人から何か教わろうとはあまり思いませんが、ホタルの育て方は教えてくれるなら聞きたい」とはにかむ。ホタルの繁殖は親になる成虫の数を増やして、着々と幼虫として放てる数を増やしている。

そもそもホタルがいなくなった原因ははっきりとはわからないのだという。ただ、林業が盛んになったことで田んぼがなくなったことやクヌギの木を切ってしまったからかもしれないと当時想像していたようだ。「カブトムシにはクヌギの木が必要ですから、クヌギを30本ほど寄付していただき植えました。そうしたらクヌギの葉っぱが川に落ちるんですね。実はそれがホタルの幼虫の餌になることがわかったんです」。風景を戻していく過程で、自然が全部つながっていることにも気づかされたのだと小西さんは語ってくれた。

がんばりすぎないことが
がんばれる原動力に

長滝復刻堂本舗はメンバーを固定せず、手が空いているタイミングで参加したい人が参加するスタイルをとっている。「普段の活動はイベント前などに準備で集まるくらいで、定期的に何かをやっている訳ではないんです。みなさん仕事もありますし忙しいですから、無理のないように」。いたって自然体だ。「好きだからやっているだけですので、大変とか思ったことはありませんね。ここに桜を植えてみようかとか、ちょっとだけ川の流れを変えてみようかと考えたら楽しくてしゃあないですよ」。

8月11日には、長滝の周辺で「親子体験クラブ」が開催される。川遊びに竹とんぼづくり、そして自家製の釜で焼く手作りピザとプログラムは目白押しだ。「多くの子どもたちが集まり、自然を楽しんでくれるのは何よりうれしいですね。でも一番楽しんでいるのはわしちゃうか?」と嬉しそうに笑う小西さん。本当にこの場所が好きなことが伝わってきた。

後編につづくーー

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