てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/11
手間を惜しみなくかけて、
1粒1粒のいちごを育てる。—前編—

くらし
2019.01.08

第11回

中井農園
中井靖氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている魅力的な方々を訪ね巡りご紹介していきます。今回は、県や国の品評会において毎年のように入賞(平成28年は農林大臣賞、平成29年は奈良県知事賞)されているいちご農園の中井さんです。19歳の時にいちご農家として生きることを決め、親子2世代の家族経営で広大な5つのいちごハウスを切り盛りしています。中井さんのいちご栽培にかける思いを伺いました。

若いパパになりたくて
19歳で結婚。そのまま就農。

関西有数のいちごの産地としても有名な天理。中井さんは、この天理の地で親の代から始まった広大ないちご農園を受け継ぐ2代目だ。「古都華(ことか)」と「あすかルビー」の2種類のいちごを生産し、その評価は東京の有名レストランのシェフをも唸らせるほど。若くして農業の世界に足を踏み入れたこともあり、経験は20年弱に及ぶベテランである。農家を継いだ経緯を中井さんが話してくれた。「小さい頃、若いパパになりたいという思いが心のどこかにあって、自分は早く結婚したんです。19歳でした。農業への想いがそこまで強いわけではなかったので、最初は『家の仕事を手伝えばいいか』くらいの軽い気持ちでした。ただ、子どもが生まれ育っていくにつれて徐々に本気で向き合うようになってきました」。

育てながら、収穫しながら。
1年かけて、いちごをつくる。

いちご栽培は1年がかりの大仕事。果実は甘いが、仕事は決して甘くはない。「イチゴの苗から『ランナー』という小さな“つる”みたいなものが出てくるんです。それを挿して根付けばまた苗ができますので、その作業を12月から翌年の9月まで延々と繰り返して数を増やしていきます。冬の時期は寒いので、ランナーは全然出てこないんですが、春先になるとどんどん出てくるようになります。最終的には9月までの間に600本の苗を2万8000本ぐらいまで増やしていくんです。多くのいちご農家の夏場の仕事はその作業になります」。

苗を増やす作業の一方で、冬場は毎日収穫もある。「春先になるとハウス内の気温が上がるので、果実が傷まないように夜中の1時に摘んで朝の9時に出荷するような日もありますね」。5月くらいからは収穫後の畑をトラクターで耕し次の苗を植える準備が始まる。「畝(うね)を耕したらビニールシートを敷いて、水を入れて蒸してあげるんです。7月末ぐらいまで殺菌したら8月の頭から新しい畝づくりをして植える場所を整えていきます」。いちご栽培は夏の苗作りが重要だと中井さんは言う。「苗を苗用冷蔵庫に出し入れして、苗によって生育の時期をわざとずらすんです。そうすることで、11月上旬から5月頭まで長期間にわたり収穫できるようになるんです」。文字通り年中無休。いちごと向き合う日々が続く。

ムダに見えることの積み重ねが
おいしさにつながる。

いちご栽培には大きく分けて2つの方法がある。高設栽培と土耕栽培だ。新規で就農する農家の多くが高設栽培を選ぶ中、中井さんは手間のかかる土耕栽培にあくまでこだわっている。「高設栽培にしたほうが効率的ですし絶対に体への負担は少ないんです。夏場の作業も減りますしね。でも、いずれの方法を選んでもいちごづくり自体は楽ではなく、それならば少しでも自分が『こだわった』と自信が持てる方を選びたいという思いはありますね」。中井さんはさらに、畑の畝(うね)の高さにもこだわりがある。「畝(うね)を高くして、根がゆったりと張れるようにしています。そして水はギリギリまで与えません。肥料になる藁(わら)を継ぎ足しながら、何年も何年もかけて畑はいちごに適した土になってきていますので、できるだけその土が持っている水分で育ってほしいからです。一見ムダに思えることこそ実直に。20年近くやっていますけど、まだまだ未知の部分が多いですからね。深いんです」。

「おいしい」その一言から
とてつもないパワーをもらえる。

親の代からいちご栽培を受け継ぐ中で、中井さんは親のやり方とは変えてきたことがあるという。「まずは販路ですね。昔はすべて市場に出していましたが、私の代から直販を始めました。ストロベリー工房という直売所を奈良市の帯解で始め、採れたていちごを販売したり、夏は冷凍したいちごでかき氷を提供しています。天理駅前広場コフフンでのイベントに出店することもありますよ。ジュースやアイスクリームにカットいちごをトッピングして提供しています。あとはホテルやレストランからご指名があれば卸させてもらっています」。直売を始めたことでいちごを食べたお客さんの顔がその場で見れるようになり、やりがいや喜びもひとしおだと中井さんはうれしそうに語る。「いちごづくりはしんどいですからね。直接お客さんの声を聞くと励みになります」。

後編につづく===

BACK
Share

この記事をシェアする