てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/29
古代の土地で、
変わった野菜を伝える
━前編━

くらし
2021.10.06

第29回

農家カフェ「けやき」
岡田洋子 氏 と 岡田明 氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介していきます。今回は、天理市杣之内町に住む岡田洋子さんと岡田明さんです。イタリアの種を植えた時から、野菜の架け橋になること、現在の農家カフェ「けやき」までのお話を伺いました。

12代目の農家が、
新たな種を植える

夏の名残が漂う9月上旬、古代ロマンを囁く杣之内町。山の辺の道と石上神宮から少し下った交差点の角っこに、農家カフェ「けやき」はあります。小さなカフェの前に、農家の案山子が静かに、気楽そうに座っています。オーナーである岡田洋子さんはピンストライプのエプロンとハンチング帽子の姿で、大きな笑顔で迎えてくれました。「10年前からカフェをやっているけど」と洋子さんは話してくれました。「主人が12代目の農家で、うちは普通の野菜じゃなくて、ちょっと変わった野菜を作っているから、もともと、そこからです」。

カフェの近くの畑で、洋子さんは旦那である明さんとお手伝いの中村君を紹介してくれました。二人はサツマイモを掘っていました。「イタリアンレストランをしている友達が、イタリアからのお土産に種やいろんなものを持って帰らはった」と明さんは思い出しました。「うちが農業しているから、『ちょっと撒いてよ』と言われて、そこからです」。最初に植えたのは、ルッコラセルヴァッティカでした。それを初めて味わった時、「驚きましたよ!何、このピリッとしているもの。こんなん、日本になかったからね」。

友達は丸ズッキーニやプンタレッラなどの種を次々と持って帰りました。明さんは代々受け継がれた土地でその時までなかった野菜、味わったことのない野菜を育てました。そういう野菜を友達のレストランに提供しながら、自分たちの直売所で販売してみました。しかし、人が見たことのない、食べたことのない野菜を販売することは予想より難しかったです。

野菜の販売から、
カフェの時代へ進む

洋子さんは直売所を担当して、販売の難しさを思い出しました。「そういう野菜を売ろうかと言った時に、珍しい野菜をぽんぽんぽんと置いても、売れないのよね。どうして食べたらいいか分からないから」。しかし、ある日に何げなく言われたことから、新たな方法が見えてきました。「来られたお客さんに、『おうちで食べるやろう。そんなんをランチにしたらどうや?』みたいな提案を頂いた。そこからなんです」。

洋子さんは舵を切り、直売所を小さなカフェに変えることにしました。直売所の裏庭にデッキとグリーンハウスの屋根を設置して、お店の中にテーブルと椅子を持ち込みました。洋子さんはお店を運営する経験がまだなかったから、天理市の商工会に相談してみました。「商工会はアドバイスをしてくれる人を派遣する制度があって、そういう方から、料理のことも、経営的なことも、店の見せ方や椅子の並べ方も、いろいろを教えてもらいました」と。

明さんが野菜の栽培。洋子さんがカフェの運営とランチの料理。しかし、カフェのデザートは?「お菓子は私じゃなくて、主人が担当です」と洋子さんは教えてくれました。「タルト、シフォン、パウンドケーキ、全部主人が作ります。あの人、そんなんが好きで、習いに行きました」。

できない理由より、
できる理由を考えて、野菜の表現を狙う

山の麓にある、奈良盆地を見下ろせる畑で立ち話をしながら、洋子さんは最近の好きな言葉を教えてくれました。「この間の、吉村知事の言葉が好きだった。『できない理由より、できる理由を考える』って。それが好き」。

それが最近の言葉かもしれないけど、洋子さんはカフェを始めたころから、そういう心を持っているのでしょう。シェフとしてのトレーニングがなくても、彼女は家庭で野菜の料理をした経験を活かして、カフェで出せる料理を開発しました。初期、野菜をたっぷり乗せたピザや、パスタサラダのような料理を出したが、手間暇がかかり、長く続けることが難しかったようです。彼女は経験を重ねて、メニューをだんだん調整したが、野菜の味を知ってもらうことが最初から今までも最優先です。「知り合いのシェフに教えてもらって、『サボイキャベツのロールキャベツ、大変やろうから、切り刻んで、トマトといろんなものと煮込みにしたらいい』って。しばらくそうしていたけど、やっぱりそのサボイキャベツの味を知ってもらおうと思ったら、切り刻むんじゃなくて、一枚の葉を使って、煮込むことやな、こっちがしんどくても」。

季節の人気メニューのおかげで、毎年のリピーターも増えました。秋に栗ご飯や栗のタルト。冬にサトイモのグラタンやサボイキャベツのロールキャベツ。春はやっぱり山菜やタケノコの料理。夏にナスや金時草の料理と、モロヘイヤの味噌汁。「モロヘイヤを調べていたら、クレオパトラがモロヘイヤスープを食べたと書いてあったけど、作り方を見たら、完全に洋風だった。日本風にしたら、やっぱり味噌汁だ。それを考えたのは夏だったから、冷汁でそれらを合体させてみた」。

農家カフェ「けやき」を開業して、10年になりました。明さんのスイーツも人気を集めて、カフェだけではなく、JR・近鉄天理駅前のコフフンショップや近鉄百貨店西大寺店にも取り扱ってもらっています。ランチのメニューは味も色彩も豊かな料理になっているが、洋子さんは野菜の味をもっとも伝えるために、まだ様々な作り方を試しています。「野菜の見せ方、味の出し方、どう表現したらいいか、ずっと悩んでいて」と彼女は説明してくれました。「作りながら、『これ、ちょっと違うよな』と思う時がある。どうしたら、野菜のことを伝えられるか、そういう表現の試行錯誤がある」。

洋子さんが話した「野菜の表現」。毎年変わりつつある季節の中で、季節とともに変わる野菜。洋子さんはこの古代の土地で、毎年の野菜と向き合って、心を込めた「野菜の表現」を創っています。野菜を伝える楽しみ、この地域で暮らす意味、洋子さんと明さんの想いを、続いて後半で紹介します。

後編に続く===

Instagram: @keyaki_tenri

Facebook

BACK
Share

この記事をシェアする