てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/33
蔵の想いを伝える
お酒の架け橋
―前編―

くらし
2021.12.17

第33回

登酒店 4代目
登和哉 氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介しています。今回は、こだわりのあるお酒を一万点以上取り扱っている登酒店の4代目・登和哉さんです。酒店の歴史とお店を継いだ経験について、天理市田井庄町のお店で伺いました。

100年を超える地元酒店。
アパレルで接客を経験した4代目。

天理本通り商店街から西へ進むと、道路はJR万葉まほろば線の線路の下をくぐり、地元の食堂、パン屋などのお店が並ぶ町を通ります。自転車に乗っている学生、犬と散歩をしている人、田井之庄池公園へ向かっている子供たちの姿で、静かに明るい道です。この道を1分ほど歩くと、登酒店に着きます。玄関の大きな酒樽の間を通り、ジャズが流れる店内へ入り、登和哉さんに会いました。

登酒店は約120年前に創業されました。4代目である和哉さんはお店の歴史について話してくれました。「昔、いわゆる一般の酒屋をやっていたんですけど、うちの父親の代で地酒や、大手の商品以外のちょっと面白い商品をやり始めました。その時、生のお酒がほとんど流通していなかったけど、奈良の蔵元さんに分けてもらったりして、生のお酒をわりと昔から、ちょこちょこやり始めましたね」。その後、クール便の普及によって、生酒の流通が増えました。

3代目であるお父さんの姿を見て育った和哉さんは、大学の進学で東京へ行き、そのまま就職しました。長男の立場で家業を継ぐことを考えていたが、天理に戻る前に、外で働きたい気持ちもありました。「ちょっと面白い仕事をしたくて、結果的にアパレル業界に入りました」。アパレルの販売員として8年間働きながら、接客の経験を重ねました。「だいぶ勉強になりましたね。お客さんとの付き合い方。あとは、商品の配置やレイアウト。どうすれば、見やすいとか。そこで結構学んできたところがありました」。

現場で学んだお酒を、人に味わってもらう大切さ。

約15年前、30歳の前に、登さんは天理の実家に戻りました。現在、いかにもプロらしく、絶妙な接客でお客さんにお酒を紹介しますが、もともとそうではなかったらしいです。「最初に帰ってきた時、まったく無知で、お酒に全然詳しくなくて、お客さんの方が詳しいじゃないか、という感じでした。知識がないまま接客するのが自分の中で苦痛でした」。

最初の一年間、彼は接客より、倉庫を片づけたり、お店のレイアウトを変えたり、ホームページを作ったりしました。お酒のことを学ぶために、取引のある蔵に足を運びました。「日本酒の蔵元さんに、お酒を造る時にお手伝いに入ったり、焼酎の蔵でちょっと手伝わせてもらったりして、なんとなく現場で『こういう風に造ってんねんな』と。本を読むではなくて、付き合いのある蔵に行って、現場でなんとなく吸収するということをしていましたね」。

実家に帰って2年目に、アパレル業界での経験を参考にして、試飲できるお酒を増やすことにしました。「洋服を試着して、自分に似合っているかどうかを試して買ったりすることができるんですけど」と登さんは例をあげました。現在、お店のほとんどの日本酒が試飲できます。登さんがお客さんの小さなコップにお酒を注いでいる姿は珍しくないです。「せっかく買い物に来てくれて、もちろん僕らは説明してお客さんのニーズを汲んで提案するけど、飲める方には、飲んでいただく方が分かりやすいし、イメージしてもらいやすいです」。

お酒が美味しい背景と想いから、提供の誇りへ

 

登さんが天理に戻った頃、自分と同じように、日本酒を勉強したかったお客さんがいました。「たまたまお店に来て知り合いになった同世代の飲食店さん。その方が本当に日本酒を勉強したい、生のお酒を知りたいと言って、僕も酒屋になりたてだったから、その飲食店さんと一緒に日本酒の蔵を回ったりしました」。当時、登酒店は飲食店にお酒を卸すことが少なかったですが、その人と親しくなり始めてから、飲食店との付き合いが増えました。今では、県外の飲食店にもお酒を卸していて、付き合いがかなり幅広くなってきました。付き合いが増えても、登さんはまだ蔵と飲食店の架け橋です。

「その方以降も、仲のいい飲食店さんを蔵に連れて行ったりして、今でも、一緒に動いたりします。造っている現場や環境や空気感を知ってもらうと、より親近感を感じてもらえるので、このお酒の美味しい背景にこういうことがあるよ、こういう方が造っている、とか。そういうことを知ってもらうことで、やっぱりお店で提供する時に、ちょっと気持ちが誇れますね。造っている方も、『こういう飲食店に扱ってもらっているんだね』というのが分かったりしますし」。蔵の現場を経験した後、お酒が飲み物だけではなく、背景のある、造り手の想いが入っているものになります。そんな気持ちが伝われば、提供する側も、飲む側も豊かになります。

家業に帰って、15年になった登和哉さん。後編では、蔵との付き合いから生まれた地域の日本酒、10年間続いた「酒の会」、と登さんの接客を紹介させていただきます。ぜひ、ご覧ください。

登酒店のInstagram: nobori555

登酒店のホームページ

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