てんりせいかつ

てんりせいかつ VOL/45
多世代で助け合う、賑わう高原地域
―後編―

くらし
2023.10.06

第45回

障がい者生活介護事業所「ぽかぽか工房」・理事長

堀内誠氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介しています。中編に引き続き、障がい者生活介護施設「ぽかぽか工房」の理事長である堀内誠さんを紹介します。南六条町にあるぽかぽか工房を運営しながら、堀内さんは天理市の高原地域で「ぽかぽかキッズサロン」を行っています。その活動のきっかけ、高原地域ならではの課題、多世代の交流などについて、天理市南六条町の工房で伺いました。

週に1回、みんなが集える場所

南六条町から約16キロ離れた天理市福住町での、6月上旬の福住小中学校の下校。校舎の外で、黄色い帽子をかぶる低学年の子どもたちは笑いながら、ジャンケンをしていました。落ち着いた中学生は自転車のヘルメットを片手で持ちながら、立ち話をしていました。

「ぽかぽかのみなさん、二列で並んでください~」と堀内誠さんはぽかぽかキッズサロンのメンバーを集めました。点呼に答えてから、青や紫やピンクのランドセルを背負った15人の子どもたちは、広がる緑の田んぼを通り抜けて、天理市高原地域振興館に向かいました。

平成29年から、堀内さんは高原地域振興館で週一回「ぽかぽかキッズサロン」をやっています。天理市のPTA活動に参加していた時代、幼稚園と保育所の統合化によって、福住幼稚園の園舎が使われなくなりました。数年後、「地元の方々の想いが詰まった幼稚園を何かに使えないかなと思って、障がいのある方も、子どもたちも、高齢の方も、みんなが集えるような場所ができるのではないか」とぽかぽかキッズサロンを始められました。

地元の保護者を中心に検討してみたら、子どもたちの集いの場が欲しいが学童保育の要件に合う子どもが少ないと分かりました。「そうしたら、僕たちはここで大きなことはできないけど、週に1回、水曜日に子どもたちが早く帰る日に合わせて、子どもたちが遊んだり勉強したりすることができるんじゃないかなと思いました」。

お互いを見守り、仲良くなる地域

ぽかぽかキッズサロンが始まった時、退職された幼稚園や保育園の園長先生や地域の方々がボランティアで来てくれるようになりました。おばあちゃん先生方と宿題をしたり遊んだりすることで子どもたちが喜ぶだけではなく、先生方にも楽しみがあります。「子どもを見ているというだけじゃないです」と堀内さんは説明しました。「子どもを見てくれている先生方もそこから元気をもらえる。『私ら習った漢字、こんな書き順、ちゃうわ!(笑)。今こう教えてんの』と言いながら、それが脳の刺激になる。なんかちょっと『遊んだろ、教えたろ』それが生きがいになるし」。

都会と違って、高原地域では、子どもたちはお友達の家に遊びに行くために、山を越えたりして、遠くへ行かなければならない場合がよくあります。また、年配の方は孫から離れていて、子どもと接する機会が少ないです。こういう地域では、ぽかぽかキッズサロンによる子ども同士の交流と多世代の交流はとても貴重なことです。そこで生まれた関係は、村の生活にも続きます。「子どもたちは村の中で会った時でも、『あ、ぽかぽかのおばちゃんや』と声をかけてもらえる。お互いに見守りにもなるし。サポートされる側も、する側も、お互いにとってなんらかのメリットがある形を作っていこうと思っています」。

高原地域で輪が少しずつ広がり、人々がぽかぽかキッズサロンに積極的に関わってくれるようになりました。「最初遠巻きに見られていた方々も、この活動を通して、だんだん中に入ってきてくださった。イベントをする時、御祝儀やスイカやジュースを持って来てくれたりとか、すごく、仲良くなってくださった。夏祭りをする時でも、氷室神社に提灯があると言って、みんなで運んできてくださったり、いい関係ができました」と堀内さんは笑顔で言いました。

懐かしい場所で、新たな思い出を作る

退職された先生と地域の方々の他にも、アートや地域創生に興味を持っている若者もぽかぽかキッズサロンへボランティアをしに来てくれます。「多世代が集うような、すべての世代にアプローチすることに心がけています。子どもだけ、障がい者だけ、高齢者だけということをあまりやりたいと思わない」と堀内さんは話しました。

そういう想いで、天理市高原地域振興館ではみなさんが楽しめる芸術祭やお祭りを開催したりします。子どもたちが描いた絵やぽかぽか工房で作られたボートを展示します。近所のお年寄りの方は思い出のある場所にまた行く機会になります。「幼稚園は地域の方に愛されている場所で、そこに足を踏み入れることがとても大事で、『懐かしいな』と自分のお子さんやお孫さんのことを感じながら、お茶を飲んだりします」。

令和5年7月、学校の夏休みの初日に「ぽかぽかキッズサロン 夕涼み会」は開催されました。「ぽかぽかキッズが企画する地域に根ざした夕涼み会」をテーマにした祭りでは、地域活性化団体の方々がかき氷やコロッケや地元の野菜を販売して、天理市内からはパン屋やケーキ屋や地元天理で起業した若手シェフも出店しました。ぽかぽか工房の利用者はフランクフルトを販売したり、祭りをみなさんと一緒に楽しんだりしました。園庭の小さなステージで子どもたちは大きな笑顔で踊りを発表したり、マジシャンがパフォーマンスをしたり、太鼓クラブが演奏したりして、会場を盛り上げました。ぽかぽか工房の皆さんが織られた色とりどりのさをり織に飾られた櫓を回りながら、踊り会の方は盆踊りを先導して、みなさんを輪へ誘いました。

「障がいのある方や子どもや高齢者、みんなが一緒にできること、楽しんで、つながっていけることが大事です」と堀内さんは言いました。高原地域でも、南六条町でも、堀内さんはぽかぽか工房の活動で笑顔を作り続けながら、輪を広げていきます。「一人でも多く地域で友達を作っていくこと。やっていることは小さな福祉事業ですけど、いろんな人が幸せになるようなまちづくりのきっかけになったらいいなと思います」と堀内さんは希望に眼を輝かせます。

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