てんりせいかつ

てんりせいかつ Vol/28
地元の地に苗を植え続ける。
━後編━

くらし
2021.07.16

第28回

吉本バラ園 2代目
吉本利彦 氏

「てんりせいかつ」では、天理で自分らしく暮らし、活躍されている方々を訪ね巡りご紹介しています。前回に引き続き、天理市櫟本町で「吉本バラ園」を運営されている吉本利彦さんです。16年間バラ生産をしてきた吉本さんに、農業者同士との活動、子供たちとの田植え、これからの展望についてお聞きしました。

農業者同士と情報を交換して、
新たな展開とつながる

 

16年間バラ園を運営しながら、吉本利彦さんは地元とのつながりを大切にしてきた。13年前から、天理市の農業青年クラブ(4Hクラブ)に入っていて、他の若者農業者と情報を交換したり、一緒に活動をしたりしている。「農家にとって、外部の刺激がものすごく大きいし、やっぱり孤立しがちなところがあるので、そこで何かコミュニティーができることによって、違う力が生まれる。入ることによって、やっぱり入ってくれた子が何かを持って帰れる。何か刺激になって、『入ってよかったな』と思ってもらえるような組織づくりを考えて、4Hクラブで活動をしている」。

天理市の4Hクラブの取り組みの中で、天理駅前のコフフンで収穫祭を開催したり、Park Side Kitchen*(パークサイドキッチン)などの市の飲食店とコラボをしたりする。「僕らが作っているものを提供して、Park Side Kitchenさんがお料理されて、それを発信していくという取組み。また、Park Side Kitchenさんの売店ブースみたいなところもあって、そこで4Hクラブ野菜やお菓子を売ったりする」。

また、生産者たちは自分の作物を個別に提供しているお店もあり、4Hクラブに入っているおかげで、情報を交換することができる。「例えば、(天理市の)洋食katsui**さんにレタスをおさめている生産者もいるし、そういう話が4Hクラブに入っていることによって、もらいやすくなる。4Hクラブにいることによって、『誰か、こんなん出せへん?』と言ったら、『あります!』みたいな、出せるチャンスもあるかな」と。

*Park Side Kitchenは天理駅前のカフェです。

**「てんりせいかつ」の第9回第10回に紹介した勝井景介氏のレストランです。

子どもたちとの田植えと、
裸足の大切さ

毎年、利彦さんは自分の田んぼで近所の小学校の5年生たちに田植えを体験させている。お父さんが始めた活動であるが、利彦さんにも、とても大事な活動だ。「生きがいの一つと言うのは大げさかもしれないけど、この時期がきたら、『これをせなあかん』と自分の中に染み込んでいて、それが何かしら自分の育った学校への恩返しだと思ってやっている」。バラ生産と同じように、子供たちとの田植えにも試行錯誤があった。「最初、僕らは長靴で入って作業をしてたけど、5年前かな、子供たちが突っ込む『長靴、ずるい!』と。そこで返す言葉が『大人やから』っておかしいと思うし。子供たちに伝える以上、子供たちと一緒の目線にならへんと伝わらないと思う」。

先日、子供たちは田んぼの端っこから端っこまで大きな列で並び、裸足を水と土に突っ込んだ。利彦さんも手伝ってくれた4Hクラブのメンバーももちろん裸足で田んぼに入った。4Hクラブのメンバーは子供たちに緑の苗を配った。「自分の前のところだけに植えてね」と利彦さんは子供たちの騒ぎ声に負けずに、体育の先生のようにはっきりした声で子供たちを指導した。

次の世代が咲いていける、
かけがえのない天理で

 

小さなころから櫟本の青空の下で遊んだ利彦さんは、中学校のころから陸上競技を愛している。彼は社会人になっても、天理の中学校の陸上部を約20年間コーチとして指導した。これから、小学生が平日の夕方から集まってきて、陸上競技を含めて、様々なスポーツを楽しむプログラムを考えている。「陸上競技の人口をただただ増やしたい。『天理出身の子らってなんか足が速いな』っていう影役者になれるようなイメージですね」。このプログラムが田植えと同じような「恩返し」かどうかと私は聞いてみると、「何かしら強い思いを持っていたというよりも、私は陸上が好きというだけだね」と彼が笑った。

櫟本に生まれて育った吉本さんはバラ園を運営しながら、ずっと地元とのつながりを守ってきた。そのうち、天理市が彼にとって、特別な存在になった。「どこに行っても、天理に帰ってきたら、天理の地に足を踏み入れた時に初めて『帰ってきたかな』のような気持ち、なんか落ち着くね」。かけがえのない天理。田植えや陸上競技の指導をしながら、吉本さんはそういう天理へ愛着の種を次の世代の心に植えている。花が咲いていくまでは時間がかかるかもしれないけど、私は満開の天理を楽しみにしている。

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